がん細胞融解ウイルス製剤『テロメライシン』
放射線が照射されると、がん細胞のDNAが傷つき、がん細胞は傷の修復を試みる。しかし、『テロメライシン』が持つアデノウイルスのたんぱく質がこの修復を抑え、放射線の感受性を強める。他にも『テロメライシン』が殺したがん細胞からは免疫促進作用のあるたんぱく質やがん抗原が放出。結果、細胞障害性T細胞が活性化し、放射線が当たっていない遠くにあるがん細胞も探して攻撃するアブスコパル効果を期待できる。
投与方法は1日目に内視鏡で食道のがん病変に0.2ミリリットルずつ、5か所に『テロメライシン』を注入。その後、4日目から1週間で10Gyの放射線治療を6週間、合計60Gy行なう。その間、18日目と32日目に『テロメライシン』の投与を追加実施する。4日目に放射線を照射するのは十分にウイルスを増殖させ、より高いがん細胞死滅効果を狙うのが目的だからだ。
「現在、『テロメライシン』の第2相試験中です。がんの増殖が進み、食道を塞いでしまっている症例は内視鏡が入らないため難しいのですが、狭くなっている程度であれば、エントリーが可能です。全国17施設で実施されており、よい結果が得られれば、第2相試験終了をもって承認という流れです」(藤原教授)
今年度中には『テロメライシン』に前回紹介した、がん細胞増殖抑止効果のあるp53遺伝子を組み込んだウイルス製剤の作成完成を目指している。再来年以降に第1相試験が実施される予定だ。
取材・構成/岩城レイ子
※週刊ポスト2022年9月9日号
藤原俊義・岡山大学大学院医歯薬学総合研究科消化器外科学教授