香取演じる筋トレ好きな鈍感夫。食卓にはプロテインドリンクやしゃぶしゃぶが並ぶのもリアル。(c)2022“犬も食わねどチャーリーは笑う”FILM PARTNERS
「空間把握能力みたいなのがすごくて。周囲に気づかれないくらいの素早い目線で、カメラの位置とかパパッとチェックするんですよ。
慎吾さんのなかではカメラと自分の位置、自分がどう映っているとか、司令塔みたいなのがいるんじゃないかと思うんです。かといってそれをこっちに気づかせるわけじゃない。監督からすると芝居中にカメラを意識してほしくないっていうのがあるんですけれど、慎吾さんはちゃんとカメラを無にできるんです。
慎吾さんとは以前、ミュージックビデオの撮影をさせてもらったことがあって。そのときにも思ったんですけれど、カメラへの意識はないのに、慎吾さんの世界になって写っている。撮られ慣れているというのもあるでしょうし、彼自身、ゼロからイチを作るアーティストな部分があるからかもしれません。それは本当に希有だと思います。
あと、台本を覚えてこないんです。それもすごいなと。ご本人も言っていたんですが、朝、移動の車の中だったり、リハーサルや照明のセッティングをしている間に、最終的にカチッと覚える、と。
セットのソファに触ったり、相手役との距離やそういったものを感じながら、その場で完全に覚えていったりするようなんです。それは僕の中で、いちばんいい役者さんの手法だなと思っているんですね。共演者の出方や状況によってはどうなるかわからない。それに合わせられる、即興性をもっているというか。
もちろん、裕次郎としての役どころやシーンの意図とか、台本を何度か読んだ上でつかんでいるとは思うんです。でも、セリフはいざ本番の直前に完全に入る、っていう手法ができたら、実はすごくいいんじゃないかって。今回、慎吾さんを見て思わされました。
ご本人が言うには、『自分が固めてきて、いざ監督の指示と違うとなったら柔軟に動けないから、逆に固めてこないほうがいい』と。すごく理にかなっているなと思いましたね」
ホームセンターの副店長という実際に身近にいそうな職業の設定。(c)2022“犬も食わねどチャーリーは笑う”FILM PARTNERS
―― 撮影現場では、その柔軟さはどのように作用したのだろう。
「僕から『自由にやってみてください』と言った場面は何回かあって。例えば寝室での夫婦のシーンがあるんですが、僕は全然、指示していないんです。その場の状況なり、2人の距離感なりがあるからこそ、ああいう動きになった。慎吾さんと岸井さん、2人がセッションでやったものを撮っただけです。
僕が想像していた動きとまったく違うものになったんですが、その場面で僕は思い知らされたというか。おふたりが自由に動いたことで説得力があったし、結果、そのほうが生々しい中に劇的さもあったりして、素晴らしいと思いました」