フクロウの名演技でタイトルが変わった
―― ところで、タイトルにもなっている「チャーリー」は、夫婦のペットの名前。なぜ犬や猫ではなく、フクロウを飼っている設定にしたのだろう。
「3つ理由がありまして。ひとつは僕が以前作った自主映画『隼』という作品です。猛禽類の隼(ハヤブサ)は一度つがいになったら、二度と離れないっていう習性があることを知ったんです。2つめは、ペットとしてフクロウを飼っている人を見て、強烈に面白くて印象に残っていたこと。
そして今回、夫の職場をホームセンターにしたとき、ホームセンターのペットコーナーに売れ残りのフクロウがいることもあり得るだろうと思ったのが3つめです。映画には描かれていませんが、それが夫婦の元にくる裏設定にもなっています。そこは小説版で書き足しています。
ただ、脚本を書いている途中で、フクロウは猛禽類だけど、実はつがいになっても、繁殖期が過ぎるとすぐに離れるという情報を初めて知ったんです。でもそれはそれでいいとしました」
―― フクロウが夫婦のやりとりを黙って見つめる様子は、シニカルで存在感がある。演技をしているようにも見えたりするが・・・・・・。
「撮影前にフクロウカフェに行ってみたのですが、猛禽類のフクロウは、てなづけるのが難しいと知って、ちょっと不安でした。でも撮影現場に来たチャーリー役の子は、ちゃんと言うことを聞いてくれました。
その演技がすごくよかったので、当初は違うタイトルだったんですが、“チャーリー”を入れた『犬も食わねどチャーリーは笑う』に変えたんです」
―― ペットのフクロウ、ディスられる夫、その設定は生まれるべくして生まれた作品。最後に、市井監督はこう話した。
「とにかく誰かと一緒に共同生活したらめんどくさいと思うんですよ。でもめんどくさいけど、人間って面白いよねっていう思いで描いています」
取材・文/やしまみき
【プロフィール】監督・脚本/市井昌秀 1976年4月1日生まれ、富山県出身。劇団東京乾電池を経て、ENBUゼミナールに入学し映画製作を学ぶ。2004年のゼミナール卒業後に制作した長編が立て続けに映画祭の賞を受賞し、注目を集める。初の長編作品となった『隼』(2005)は第28回ぴあフィルムフェスティバルで準グランプリと技術賞、香港アジア映画祭コンペティション部門「New Talent Award」グランプリを、続く『無防備』(2007)は第30回ぴあフィルムフェスティバルでグランプリを、第13回釜山国際映画祭では新人監督作品コンペティション部門最高賞を受賞した。2013年には、初の商業映画『箱入り息子の恋』が公開。同年のモントリオール世界映画祭ワールドシネマ部門に正式出品し、第54回日本映画監督協会新人賞を受賞。ドラマ作品では、尾野真千子主演のドラマW「十月十日の進化論」(2015年/NHK)でギャラクシー賞奨励賞の他、日本民間放送連盟賞テレビドラマ部門優秀賞、東京ドラマアウォード2015単発ドラマ部門優秀賞を受賞。監督と脚本を務めた映画に、『箱入り息子の恋』(2013年)、草彅剛主演の『台風家族』(2019年)。妻・市井早苗との夫婦ユニットで、『犬も食わねどチャーリーは笑う』の小説化も出版。