芸能

中森明菜『飾りじゃないのよ涙は』は松田聖子への“宣戦布告”だった

中森明菜の『飾りじゃないのよ涙は』の意味

中森明菜の『飾りじゃないのよ涙は』の意味(写真は1985年。女性セブンより)

 再始動を宣言した中森明菜の紅白出場が大きな期待と関心を呼んでいる。実現すれば8年ぶり9回目の出場となり、1980年~90年代に人気を二分した松田聖子との共演にも注目が集まる。国際情勢からアイドル論まで幅広い評論活動で知られる白川司氏が、2人の「昭和の歌姫」について語った。

 * * *
 松田聖子はデビュー当時からあらゆる面で完成されていました。歌唱力が抜群であると同時に、アイドルタレントとしての完成度も高く、還暦を迎えた現在に至るまで「アイドル」として走り続けている稀有な存在だと思います。

 一方、中森明菜も歌唱力が高く、特に高音の伸びが圧倒的なのですが、低音域がやや不安定なのが難点でした。その低音域を「不安定」から「抑制」に変えたのが『飾りじゃないのよ涙は』でした。この曲で彼女は脱アイドルを果たしました。なぜなら、この曲はアイドルならざる世界観を表現すると同時に、松田聖子に対する“宣戦布告”でもあったからです。

 歌詞を見ると、当時、松田聖子がヒットさせていた『瞳はダイアモンド』の最後のフレーズに対して、彼女は『飾りじゃないのよ涙は』と正面から啖呵を切っています。もちろん明菜本人にそうした意識があったかどうかはわかりませんが、『飾りじゃないのよ涙は』を作詞・作曲した井上陽水にはその意識があったと私は思っています。その後の明菜は「アイドル歌手」ではなく「歌う女優」に脱皮します。

 アイドルとしての輝きが尋常ならざるレベルにあった明菜と聖子は、後に様々な非難、中傷に晒されます。極端な言い方をすれば、一時期の聖子は「日本中から嫌われた」といってもいいほどのバッシングに巻き込まれて、普通の人間なら潰れてしまうであろう嵐のような日々を過ごしています。ところがまだ二十歳そこそこの彼女は、笑顔でこれを乗り越えました。しかも、女性たちまで味方につけて、最後は還暦にして初期の代表曲『青い珊瑚礁』のPVまで披露しました。まさに強靭な精神力を持つ“アイドルのモンスター”だといえます。

 では、明菜はどうか。明菜も聖子同様、精神的に厳しい状況に追い込まれ、自分を傷つけ、結局体調不良で活動休止となって事実上表舞台から降りることになりました。プライベートで辛い目にあったことがダメ押しになったものの、“モンスター級”にタフだった聖子と比べると、その地位を長く維持するには精神的にもろく繊細すぎたのかもしれません。

 中森明菜と松田聖子。昭和という激動の時代をともに駆け抜けた2人が、30年という時の中でそれぞれ波乱の人生を歩み、同じにステージに立つ。もしそんな光景を見ることができたら胸が熱くなりますし、これほど胸躍ることはありません。

【プロフィール】
白川司(しらかわ・つかさ)/評論家、翻訳家。東京大学大学院博士課程満期中退。海外メディアや論文などの情報を駆使した国際情勢の分析に定評がある。著書に『14歳からのアイドル論』(青林堂)、『日本学術会議の研究』(ワック)など。

聞き手/小野雅彦

関連キーワード

関連記事

トピックス

鳥取県を訪問された佳子さま(2025年9月13日、撮影/JMPA)
佳子さま、鳥取県ご訪問でピンクコーデをご披露 2000円の「七宝焼イヤリング」からうかがえる“お気持ち”
NEWSポストセブン
世界的アスリートを狙った強盗事件が相次いでいる(時事通信フォト)
《イチロー氏も自宅侵入被害、弓子夫人が危機一髪》妻の真美子さんを強盗から守りたい…「自宅で撮った写真」に見える大谷翔平の“徹底的な”SNS危機管理と自宅警備体制
NEWSポストセブン
長崎県へ訪問された天皇ご一家(2025年9月12日、撮影/JMPA)
《長崎ご訪問》雅子さまと愛子さまの“母娘リンクコーデ” パイピングジャケットやペールブルーのセットアップに共通点もおふたりが見せた着こなしの“違い”
NEWSポストセブン
永野芽郁のマネージャーが電撃退社していた
《坂口健太郎との熱愛過去》25歳の永野芽郁が男性の共演者を“お兄ちゃん”と呼んできたリアルな事情
NEWSポストセブン
ウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(23)がナイフで切りつけられて亡くなった(Instagramより)
《監視カメラが捉えた残忍な犯行》「刺された後、手で顔を覆い倒れた」戦火から逃れたウクライナ女性(23)米・無差別刺殺事件、トランプ大統領は「死刑以外の選択肢はない」
NEWSポストセブン
国民に笑いを届け続けた稀代のコント師・志村けんさん(共同通信)
《恋人との密会や空き巣被害も》「売物件」となった志村けんさんの3億円豪邸…高級時計や指輪、トロフィーは無造作に置かれていたのに「金庫にあった大切なモノ」
NEWSポストセブン
愛子さまが佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”とは(時事通信フォト)
《淡いピンクがイメージカラー》「オシャレになった」「洗練されていく」と評判の愛子さま、佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”
NEWSポストセブン
年下の新恋人ができたという女優の遠野なぎこ
《部屋のカーテンはそのまま》女優・遠野なぎこさん急死から2カ月、生前愛用していた携帯電話に連絡すると…「ポストに届き続ける郵便物」自宅マンションの現在
NEWSポストセブン
背中にびっしりとタトゥーが施された犬が中国で物議に(FB,REDより)
《犬の背中にびっしりと龍のタトゥー》中国で“タトゥー犬”が大炎上、飼い主は「麻酔なしで彫った」「こいつは痛みを感じないんだよ」と豪語
NEWSポストセブン
(インスタグラムより)
《“1日で100人と寝る”チャレンジで物議》イギリス人インフルエンサー女性(24)の両親が現地メディアで涙の激白「育て方を間違ったんじゃないか」
NEWSポストセブン
藤澤五月さん(時事通信フォト)
《五輪出場消滅したロコ・ソラーレの今後》藤澤五月は「次のことをゆっくり考える」ライフステージが変化…メンバーに突きつけられた4年後への高いハードル
NEWSポストセブン
石橋貴明、現在の様子
《白髪姿の石橋貴明》「元気で、笑っていてくれさえすれば…」沈黙する元妻・鈴木保奈美がSNSに記していた“家族への本心”と“背負う繋がり”
NEWSポストセブン