ドイツで実施された電動キックボード販売会社による安全運転講習会。もちろんヘルメット着用(dpa/時事通信フォト)

ドイツで実施された電動キックボード販売会社による安全運転講習会。もちろんヘルメット着用(dpa/時事通信フォト)

「そうは言っても、自転車までヘルメット義務化となると難しいでしょうね。つまるところ、最終的には電動キックボードは原付というより自転車の扱いにしたいのでしょう。実際、免許もいらなくなりますしね」

 補足すると、2024年4月ごろには免許不要で電動キックボードに乗れるようになるとされている。先の改正道路交通法による特定小型原付の電動キックボードに適用される予定だが、16歳以上なら免許不要で制限速度も20km/hに緩和される。その他、細かい条件はあるが、16歳以上なら無免ノーヘルで20km/hの電動キックボードを運転することができることになる。条件によっては歩道走行も可能である。ちなみにシンガポールでは2019年、事故の多発から電動キックボードの歩道走行は禁止となった。

「今回の事故、可哀想ですけど、言い方が難しいのですが、自爆ではなく誰かを傷つけるような人身事故だったらと思うと怖いですね。あと、自分が自動車を運転している時に電動キックボードを引っ掛けてしまったり、はねてしまったりしたらと思うとね。過失は相手にあっても自動車のほうがより責任が重くなる可能性が高いですし、商業車ならなおさら、いまでも電動キックボードが公道にいると怖いなと思うのに、無免許ノーヘルで歩道を走り回ってもOKになるのでしょう。ちゃんと原付の電動キックボード、欲を言えばバイクの原2(原付2種、普通自動二輪小型限定)に乗ってくれればいいのに」

 最後のひと言はバイク屋さんなので仕方のない話だが、筆者も同感である。それはともかく、せめてヘルメットだけでも義務化するべきではないだろうか。

「制限速度30km/hの原付に免許取得とヘルメット着用義務があるのに、制限速度20km/hの電動キックボードが無免ノーヘルになるってやっぱりおかしいと思いますよ。うるさいことを言うなという人もいるでしょうが、本当にノーヘルで頭部を打つのは危険なんです。なってから後悔しても遅いんです」

 20km/hを甘く見てはいけない、アスファルトやコンクリートに頭が叩きつけられれば命に関わる。それなのに普及を最優先にノーヘルOKで国民を使って公道実験をしている。

 これまでも書いている通り、新しいモビリティの可能性は否定しない。しかし見切り発車が過ぎる。要免許・要ヘルメットで制限速度30km/hの原付と、無免許ノーヘルで制限速度20km/hの特定小型原付・電動キックボードの差は何なのか、その整合性はやはり不可解だ。

 お亡くなりになった方がヘルメットを着用していたら助かったかどうかはわからない。しかしヘルメットを被っていれば助かった命だったかもしれない、も成り立つ。警視庁や行政、そして多くの一般ドライバーの懸念を無視してまで安全を蔑ろにする必要性はあるのだろうか。

 たかがヘルメットと言う方もあるだろう、ならば「たかが」なのだから義務でなくともヘルメットは着用して欲しい。最後に重ねて、死亡した男性に心からお悔やみを申し上げる。

【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。社会問題や生命倫理の他、日本のロジスティクスおよびモビリティ分野に関するルポルタージュも手掛ける。 

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