薬剤師の「発言力」がない
ただ、「医者は金儲けのために薬を出す」というのは誤解です。院外処方による医薬分業が進んだ今、医者は薬を出せば儲かるわけではない。薬を出すほど儲かるのは、院外薬局の経営者や製薬企業などです。
医薬分業が進む以前、自分のクリニックで薬を出していた頃は、金儲けのために薬をいっぱい出す医者もいましたが、その時代の医者は、薬なんて信じていない人が多く、自分では飲まなかった。そんな構造がありました。
院外処方になり、医者は薬で儲けられないにもかかわらず処方が減らないのは、今の医者が教科書に書いてある通りに薬を出し続けているからです。加えて製薬企業や薬局の人が必死に営業を仕掛け、それによって薬を多く出してしまうこともあるかもしれない。
さらに、「薬剤師の発言力不足」も大きな問題です。調剤薬局では、処方箋を持参した患者さんのおくすり手帳を見て、薬局の薬剤師が「不的確な処方」であると判断することがあります。
分かりやすいのは「併用禁忌」。別の病院で出されている薬との組み合わせを見て、薬剤師が併用禁忌を発見すれば、処方医に進言して薬を変えてもらうことができます。
ところが、「多剤併用」によるポリファーマシー(薬物有害事象)の懸念がある時は違います。薬剤師から医者に「大丈夫ですか」と進言する場面はまず考えられない。
薬剤師の職務上、本来は必要なことです。薬剤師に指摘されたら、医者の側も「そうですね、それでは減らしましょう」と思わなければいけません。しかし、そうした進言や注意はまず上がってこない。
これは医学界において薬剤師より医者のほうが「権威が上」になってしまっているからです。これはポリファーマシーを解決するうえで本当に大きな問題で、薬剤師から遠慮なくものが言える構造を作らなければいけません。
また、患者さんが複数の医療機関や診療科をまたいで受診するなかで、前に処方したほかの先生に対する「忖度」が働くこともあります。
例えば、すでに別の病院で処方されたAという薬を服用して「症状が改善しない」と訴える患者さんが来た時は、「じゃあBという薬を増やしてみましょう」となる。「Aをやめましょう」とはならない。前の先生の処方を「間違いだった」と結論付けることになるからです。私自身も、同じ病院の先生が出している薬について「飲むのをやめて」と正面から言うことは躊躇してしまいます。