──その後、猪木さんと馬場さんの対立関係が生じると、敬子さんも必然的に馬場さん寄りになるんですね。
「自分としてはそこまでの意識はなかったんですが、周囲の関係でそうなったんですね。主人の十三回忌追善興行を日本武道館でやったとき、猪木さんも同じ日に興行を打ったでしょう」
──屈指の名勝負と語り継がれる、蔵前国技館でのビル・ロビンソン戦です。あの前に「猪木、敬子未亡人に謝罪」とスポーツ紙の一面に報じられたりもしましたが。
「私は『同じ日にやります』って報告を受けた気でいたけど、周囲はそうもいかず(苦笑)。でも、その後も私の前では猪木さんも馬場さんもなごやかにしていました。2000年に『力道山メモリアル』って横浜アリーナでやったでしょう」
──ありましたね。「アントニオ猪木対滝沢秀明」という異次元の決闘もありましたが。
「馬場さんが健在だったら協力してもらえたと思うんです。“力道山のためなら”っていう想いは、2人には共通してありましたから」
【プロフィール】
細田昌志(ほそだ・まさし)/1971年生まれ、岡山県出身。ノンフィクション作家。近著『沢村忠に真空を飛ばせた男/昭和のプロモーター・野口修評伝』(新潮社)が「第43回講談社本田靖春ノンフィクション賞」を受賞。「NEWSポストセブン」にて、11月25日よりノンフィクション連載『力道山未亡人~元日航CA・田中敬子の数奇な半生~』がスタート予定。
田中敬子(たなか・けいこ)/1941年6月6日、神奈川県生まれ。神奈川県立横浜平沼高校卒業後、日本航空の客室乗務員として勤務。この時期に撮影した写真を力道山に見初められ交際開始、1963年6月5日に結婚。同年12月15日、力道山が他界。その後は未亡人として、娘を育てながら亡夫の事業を引き継ぐ。現在は力道山の菩提を弔いつつ、数々の社会事業に貢献している。
※週刊ポスト2022年12月2日号