1985年に誕生した持ち歩ける自動車電話のショルダーフォン(左)は重量が約3キロ。1987年にNTT初の携帯電話サービス開始とともに発売された小型のTZ-802型(右)も約900グラムの重さだった(松下通信工業提供、時事通信フォト)
中には遊びに夢中になり、定期連絡を忘れてしまうヤツもいたという。ハッと気がつき我に帰り、慌てて小銭を探したものの「その時、10円玉が無ければ電話するタイミングを失う。忘れたことをどう言い訳しよう、なんて言われるだろうと考えているうちに、どんどん時間が過ぎていき、連絡できなくなる」(B氏)。
「それでも電話して謝ればいいのに、こういうヤツほど下手を打つのか逃げ腰になる。組長に見つかって『てめぇこのヤロー、指詰めて持ってこい!』と一喝され、仕方なく指を飛ばす」のだと、B氏は肩をすくめた。
ポケベルが「ピーピー」鳴って居留守がバレた
ポケベルが出てきてからは、組からの呼び出しが増えていったという。連絡するのが遅れると、ポケベルは何度もピーピー鳴り続けた。
「時間差でポケベルが鳴ることもあった。鳴ったから電話するんだが、組では何回もポケベルを打ったようで、電話を切るとまた鳴るから、また電話する。『何でしょうか』と聞くと『知らねえよ』と言われ、『あっすみません』と謝って電話を切る。そこでまた鳴ると、また電話しなければならない」(A氏)この繰り返しだ。
「なぜか嫌だなぁと思う時にポケベルは鳴った」というB氏は、居留守を使ったのがポケベルでバレたことがあったという。他の組員の家にいた時、組事務所からそこに電話がかかってきたのだ。
「おい、あいつ、お前の所に行ってないか」という組事務所に、その組員は「いや来てないっすよ、どこ行ったんですかね」ととぼけたが、B氏のポケベルがそこで鳴った。
「ピーピー鳴ってるぞ。あいつ、そこにいるんじゃないか」、重くて高い携帯電話から、事務所はB氏にポケベルを打っていた。
「いや、自分のですよ」と組員は突っぱねたが、その時、組員のポケベルも鳴ったのだ。
「そいつ、ポケベルの音を消してねえんだよ」とB氏。
「てめぇ嘘つくんじゃねぇ」と2人は組長に怒鳴られた。「俺たちにとって”つまらない事”でも、組長によっては指を詰めるような”問題”になる。自分が指を飛ばしている組長ほど、簡単に『指を持ってこい』と言う」(A氏)
2人の指は今もある。