A氏は即座に組員全員に集合をかけた。携帯電話で直に集合をかけられた組員たちにとっても、この話は厄介だったろう。
「おいこのままだと下手を打ちそうだ。しょうがない。お前らもなんとか金を作れ!」
言われて組員たちは一斉に飛び出していった。
動員した組員たちも頑張り、A氏はその日のうちになんとか300万円を作り、月曜の朝に200万円を用意した。合わせて500万円だ。とりあえず、急ぎ半分だけ親分に渡そうと電話したのだ。
「すみません、今から行きます」
すると親分は気楽な調子でこう言った。
「おまえ、振込でいいぞ。残りは来月の会合の時に持ってこい」
力が抜けたような、ほっとしたような気がしたとA氏はいう。
そして会合の日、A氏が500万円を持って行くと、これで1000万円がそろったはずなのに、親分は当然とばかりに
「おまえ、残りの500はどうした?」
「はい? 親分、1000って言ってましたよ」
「ほう、そうかぁ。1500だぞ。俺、1500って言わなかったか」
A氏はこう言うしかなかった。
「頑張ります」
残りの500万円を作るため、A氏はすぐに金策に走った。その時、金をどうやって作ったかは聞けなかったが、言われた額を数日のうちにきっちり用意したという。
事務所内を撮影した動画が流出
さて返金の期日、返してもらうのはたぶん無理だろうと思ったというA氏だが、親分に会ってこう聞いたそうだ。
「この間の金、あれ、大丈夫そうですか」
すると親分は、すっとぼけてこう答えた。
「何の金や?」
「いや、何のって」
口ごもるA氏を見て、親分はニヤニヤ笑った。
「無理やな。辛抱しとけ」
返して欲しいという気持ちは腹の中に抑え込むしかない。
結局A氏が渡した金は戻ってこなかった。
「『みんなには内緒やで』と言いながら、親分は他の組員にも同じように金を持ってこさせているんだ」というA氏。携帯電話が普及したことで「こういう時だけは、親分からダイレクトにかかってくようになった」とぼやく。