上海のウルムチ路でデモは起こった(写真/共同通信社)
今春に上海で断行されたロックダウンでは、防護服を着た監視員が野外で目を光らせ、外出を厳しく制限された。政府からの配給が届かず食糧不足を訴えることもあった。そういった苦難を経験した市民たちが、ウルムチの火災事故で動き出した。
「ここで声をあげなければ、今後同じようなことが起きて自分が被害に遭った時に、誰も声を上げなくなる。人々の我慢が限界に達して導火線に火がつき、デモが始まったのだと思います」
警察による取り締まりは厳格化しているが、それでもA氏は期待を込めてこう語る。
「今後も運動は続くと思います。今回の動きは、天安門事件での若者の運動を連想せずにはいられません。政府は人々が集まることに対し敏感になっていますが、今回の活動が失敗したら、中国人が再び立ち上がることはさらに困難になる。圧迫と搾取がさらにひどくなってしまう」
大規模な抗議運動が起きたことにはA氏自身も驚いていた。
「『習近平やめろ』『共産党退陣』などのスローガンは決して過激ではなく、まったく合理的な主張です。ただ、今回のような運動はいつか起きるだろうとは思っていたものの、こんなに突然起きるとは思っていませんでした。驚くと同時に、感動しています」
孫春蘭副首相は11月30日、「オミクロン株の毒性が弱まり、ワクチンの接種も進んだ」と指摘。感染対策の緩和を示唆した可能性がある。Aさんたちの訴えは、習近平まで届くだろうか。
■取材・文/西谷格
【プロフィール】
西谷格(にしたに・ただす)/ライター。1981年、神奈川県生まれ。地方紙『新潟日報』記者を経て、フリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポート。著書に『香港少年燃ゆ』『ルポ 中国「潜入バイト」日記』など。