上海では当局も動いた(上海デモ参加者からの提供写真)
暴力的弾圧も
強硬姿勢が招いた反政府デモの衝撃は世界に波及した。海外メディアは、白紙を掲げる民衆の姿を続々と報じ、国連のドゥジャリク事務総長報道官は習政権をこう牽制した。
「平和的な集会と結社、デモの権利は重要だと信じている。当局には権利の保障を要請する」
日本も例外ではない。11月30日夜には東京・新宿でも数百人の在留中国人たちが白紙を掲げ、「自由が欲しい!」と訴えた。
過去に中国全土で大規模なデモが起きたのは、習氏が権力を握る前の2012年9月に遡る。尖閣諸島問題に端を発し、暴徒化した群衆が日系企業の工場やスーパーを襲撃した反日暴動である。だが今回のデモは2012年とは異なると宮崎氏は言う。
「当時の反日暴動は中国共産党が民衆に生卵やペットボトルなどを配って演出したもの。当局は愛国無罪を掲げ、群衆がいくら暴れてもお咎めなしでした。しかし今回のデモは背後に扇動する組織はなく、自然発生しました。国外での抗議活動を含めて、習氏にとっては非常に不気味なデモであるはずです」
民衆の不満の対象はゼロコロナだけではない。若者や地方にはさらなるマグマが溜まっている。
「大学新卒の就職先がなく、若者の失業率は40%超とされます。地方では投機用マンションブームが終焉して、ローンを支払っているのに建設が中止される事態が相次ぎ、経済への鬱憤が充満しています。党大会で追いやられた傍流の共産党員も習氏の独裁に不満を抱いています」(宮崎氏)
今回のデモで思い起こされるのは、1989年の天安門事件だ。最初は改革派の胡耀邦元総書記を追悼するため北京大や清華大の学生らが追悼集会を行ない、それに呼応した学生や市民が民主化を求め、最終的には数万人のデモ隊が天安門広場を埋め尽くした。
その同胞に向けて人民解放軍が発砲。死者は1万人超とも言われ、中国は国際社会から激しく非難された。
奇しくも11月30日、天安門事件をきっかけとする指導部交代を機に共産党のトップに上りつめた江沢民・元国家主席が死去した。経済で改革開放路線を取りながら、政治の自由と民主化を認めなかった江氏は、現在につながる歪な中国社会の元凶とも言われる。
この先、習氏はどうなるのか。宮崎氏が語る。
「ゼロコロナ政策を変更しない限り国民の不満は収まらないが、習氏にそれを進言できる側近は皆無で、メディアも批判しません。デモが拡大すれば、習氏が暴力的にデモを弾圧する可能性は否定できない。そうなれば国際的な孤立は避けられないでしょう」
追い詰められた独裁者は、またも悲劇を繰り返すのか。
※週刊ポスト2022年12月16日号