トコジラミは成虫で5ミリから8ミリくらいの大きさ(Biosphoto via AFP)
有害生物防除に関する全国組織である公益社団法人日本ペストコントロール協会(以下、JPCA)の茂手木眞司事務局長によれば、
「世界で人の移動が多くなると、どうしてもトコジラミも移動します。四つ星の高級ホテルであっても、宿泊者の荷物や衣服、靴などについてトコジラミが運ばれてくることがあります。また、訪日外国人の方だけでなく、日本人が帰国するときに持ち込まれるケースもあるので、自分で意識して工夫して、被害にあいにくいようにするのが対処方法になります」
とのことで、必ずしも訪日外国人が原因というわけでもなく、また施設の新旧、グレードの高低に限った話でもない。
そもそもトコジラミ、昔は日本中にいた。しかしDDTと呼ばれる有機塩素系の殺虫剤が、戦後まもなくの衛生状態の悪い日本において威力を発揮して徐々に数を減らしていった。古いニュース映像などで粉末を子どもたちの全身にかけたり、女性の服の中に流し込んだりする映像はよく知られている。そうして日本では「ほぼ根絶」したはずのトコジラミだったが、まさかそんな虫が新居にいたとは。前述の30代サラリーマン男性も嘆く。
「日本で普通に暮らしていてダニとかゴキブリは気にしますけど、トコジラミなんてまず考えないじゃないですか。不動産屋は先住者が出たあとクリーニングには入ったと言ってましたけど、その程度じゃトコジラミは退治できなかったんでしょうね」
トコジラミのために入居してすぐ、また引っ越し
トコジラミのことなど考えもしなかった彼、ベッドは新調するつもりだったので、新居で最初の夜は床にキャンプで使うような簡易なマットを敷いて寝たという。電気を消して真っ暗な部屋、しばらくすると、皮膚を何かが這う感覚がした。
「スマホのライトで照らしてみると5mmくらいの虫が数匹いました。あとで知ることになるのですが、それがトコジラミでした」
時すでに遅し、彼は無数に刺されていた。まもなく、刺された数カ所から猛烈なかゆみが襲ってきた。トコジラミは2箇所刺すとされるが、実際は1箇所だけのこともあれば無数に刺されることもある。
「痛痒いというか、とにかく蚊に刺されたとかそんな次元じゃないです。もう全身が痒くなって、過呼吸ぎみになってしまいました。腫れ上がった箇所もありました」