ライフ

【書評】温暖化を防ぐ理念は正しくても正義ではない 陰でうまい汁を吸う者たち

『メガソーラーが日本を救うの大嘘』

『メガソーラーが日本を救うの大嘘』

 ロシアによるウクライナ侵攻、安倍元首相銃撃といった衝撃的な事件が次々に起きた2022年。大きな歴史の分岐点に立つ私たちはいま、何を考え、どう処すべきなのか? 本誌・週刊ポストのレギュラー書評委員12名と特別寄稿者1名が選んだ1冊が、その手がかりになるはずだ──。

【書評】『メガソーラーが日本を救うの大嘘』/杉山大志・編著 川口マーン惠美+掛谷英紀+有馬純ほか・著/宝島社/1540円
【評者】岩瀬達哉(ノンフィクション作家)

 太陽光発電はクリーンなエネルギーで発電コストも安い。そういった世論をリードしてきたのは再エネ事業者と御用学者、また環境関連のシンポジウムで利益をあげてきたメディアであった、と本書は「義憤」をもって断罪する。

 エネルギー問題のフロントに立つ研究者や気候温暖化交渉の元首席交渉官、企業で環境問題を担当している実務者ほか、ジャーナリストや都議会議員といった多士済々のメンバーが、メガソーラーという「虚構のナラティブ(物語)」に埋め込まれた「大嘘」を論駁している。

 太陽光発電の心臓部「結晶シリコン」で世界市場の80%を量産する中国は、「ウイグル人の強制労働」でコストダウンをはかっている。手作業で結晶シリコンを1トン造る彼らに支払われる報酬は、わずか「約700円」。しかもその過程で「安価な石炭火力」が使われ、大量の温室効果ガスが放出されている。これがクリーンとされる太陽光発電の正体なのである。

 地球温暖化対策は、世界共有の課題だが、先進国と後進国では引き受けるべき責任に差異があり、化石燃料をただフェードアウトさせればいいわけではない。途上国にとっては、雨の日や夜間には発電しない太陽光発電といった再生可能エネルギーでは、電力を安定的に供給できない。発電コストが安く、天候に左右されずに一年中発電できる火力発電は、なくてはならない施設なのである。

 これまでさんざん化石燃料で温室効果ガスを出してきた先進国が、途上国の実情に配慮することなく、「国連や欧米諸国の投資家、金融機関、環境NGO」に引きずられ、「省エネ、再エネという『定食』を押しつけ」ていけば、さらなる分断を引き起こし「結果的にエネルギー危機を長期化させる」という。

 地球温暖化を食い止めるという理念は正しくても正義ではなく、実現可能性の乏しい空論では意味がない。その陰でうまい汁を吸っているのは、再エネの物語に群がるものたちということになる。

※週刊ポスト2023年1月1・6日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

不倫疑惑が報じられた田中圭と永野芽郁
《スクショがない…》田中圭と永野芽郁、不倫の“決定的証拠”となるはずのLINE画像が公開されない理由
NEWSポストセブン
多忙の中、子育てに向き合っている城島
《幸せ姿》TOKIO城島茂(54)が街中で見せたリーダーでも社長でもない“パパとしての顔”と、自宅で「嫁」「姑」と立ち向かう“困難”
NEWSポストセブン
小室圭さんの“イクメン化”を後押しする職場環境とは…?
《眞子さんのゆったりすぎるコートにマタニティ説浮上》小室圭さんの“イクメン”化待ったなし 勤務先の育休制度は「アメリカでは破格の待遇」
NEWSポストセブン
女性アイドルグループ・道玄坂69
女性アイドルグループ「道玄坂69」がメンバーの性被害を告発 “薬物のようなものを使用”加害者とされる有名ナンパ師が反論
NEWSポストセブン
遺体には電気ショックによる骨折、擦り傷などもみられた(Instagramより現在は削除済み)
《ロシア勾留中に死亡》「脳や眼球が摘出されていた」「電気ショックの火傷も…」行方不明のウクライナ女性記者(27)、返還された遺体に“激しい拷問の痕”
NEWSポストセブン
当時のスイカ頭とテンテン(c)「幽幻道士&来来!キョンシーズ コンプリートBDーBOX」発売:アット エンタテインメント
《“テンテン”のイメージが強すぎて…》キョンシー映画『幽幻道士』で一世風靡した天才子役の苦悩、女優復帰に立ちはだかった“かつての自分”と決別した理由「テンテン改名に未練はありません」
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
《ヤクザの“ドン”の葬儀》六代目山口組・司忍組長や「分裂抗争キーマン」ら大物ヤクザが稲川会・清田総裁の弔問に…「暴対法下の組葬のリアル」
NEWSポストセブン
1970~1990年代にかけてワイドショーで活躍した東海林さんは、御年90歳
《主人じゃなかったら“リポーターの東海林のり子”はいなかった》7年前に看取った夫「定年後に患ったアルコール依存症の闘病生活」子どものお弁当作りや家事を支えてくれて
NEWSポストセブン
テンテン(c)「幽幻道士&来来!キョンシーズ コンプリートBDーBOX」発売:アット エンタテインメント
《キョンシーブーム『幽幻道士』美少女子役テンテンの現在》7歳で挑んだ「チビクロとのキスシーン」の本音、キョンシーの“棺”が寝床だった過酷撮影
NEWSポストセブン
女優の趣里とBE:FIRSTのメンバーRYOKIが結婚することがわかった
女優・趣里の結婚相手は“結婚詐欺疑惑”BE:FIRST三山凌輝、父の水谷豊が娘に求める「恋愛のかたち」
NEWSポストセブン
タレントで医師の西川史子。SNSは1年3ヶ月間更新されていない(写真は2009年)
《脳出血で活動休止中・西川史子の現在》昨年末に「1億円マンション売却」、勤務先クリニックは休職、SNS投稿はストップ…復帰を目指して万全の体制でリハビリ
NEWSポストセブン
太田基裕に恋人が発覚(左:SNSより)
人気2.5次元俳優・太田基裕(38)が元国民的アイドルと“真剣同棲愛”「2人は絶妙な距離を空けて歩いていました」《プロアイドルならではの隠密デート》
NEWSポストセブン