羽生善治はいかにして復活を遂げたのか
藤井を超えた瞬間
いくら羽生が復活しても、相手を上回らなければ勝てないのが将棋だ。
藤井聡太はそれだけの難敵である。タイトル戦で11期全勝といまだ負けなし。森内九段も藤井の強さには脱帽している。
「とにかく指し手が正確ですし、研究の量も質も上がっている。以前は時間を使いすぎて終盤でミスをすることもありましたが、最近は時間を残すことも増えて、戦い方もうまくなっている」
これぞスキなし。王将戦の開幕戦はまさにそのような結果になった。後手の羽生が一手損角換わりという意外な戦型を採用した。村山七段は「実は羽生さんの裏芸で勝率が高いんです」と語る。中盤まではうまく進めたが藤井が徐々に優位に立ち、最後は圧倒した。羽生が終局後に「どこが悪かったのか今はわからない」と漏らしたほど。それはつまり藤井がただただ強かったということだ。
注目の第2局は1月21、22日に行われた。先手番の羽生にとって絶対に落とせない勝負だ。藤井は今期、先手番では24勝1敗という信じ難い好成績を残している。藤井が後手番の時に勝機を見出すのが自然な発想だ。
「私は振り飛車のほうが勝つ可能性が高いと見ています。数は少ないけど羽生さんの勝率が高いし、藤井さんも強豪相手だと対中飛車の勝率が下がるので」(村山七段)
しかし、羽生は相掛かりという流行形で藤井に真っ向から挑んだ。藤井が前例を外して未知の局面に誘うも、羽生は迷うことなく攻め続けた。大駒を乱舞させ、藤井陣に迫る。そして初日の夕方にその手は現れた。羽生が持ち駒の金を敵陣の玉から離れた僻地に打ち込んだのだ。金は自陣の守りか、終盤で敵玉のそばで使うのが基本だ。
まさかの金打ち。だがAIは最善と判断していた。これに対して藤井が指した手が疑問手の可能性が高く、形勢の針が先手側に触れた。