ライフ

【新刊】現役書店員・佐藤厚志氏の芥川賞受賞作『荒地の家族』など4冊

 立春を過ぎ、暦の上では春を迎えた。少しずつ暖かくなってくるこの季節に読みたい、おすすめの新刊4冊を紹介する。

『荒地の家族』/佐藤厚志/新潮社/1870円

『

人工的な白い防潮堤の脇で老人が指さす。「浜がさ、前はその辺まであったのよ」(本文より。佐藤厚志氏著『荒地の家族』)

 震災後を描いた新芥川賞作。こんな一文がある。記憶はひと続きでは現れない。「味わった感情、手触り、痛み、苦しさが点々として残りかすのようにあるだけだ」。まさにそんな流れで、造園業を営む主人公の日々に、妻を亡くした痛み、再婚した妻の突然の遁走、息子啓太の成長、3.11当日、幼馴染とのいきさつなどが浮上しては沈澱する。著者は書店勤務、売場で照れ臭いかも。

『地図と拳』/小川哲/集英社/2420円

タイトルを意訳すれば“創造と破壊”。人々を惹きつけた満洲の架空の町の光芒

タイトルを意訳すれば“創造と破壊”。人々を惹きつけた満洲の架空の町の光芒(小川哲氏著『地図と拳』)

 選考委員のダントツの支持を集めた新直木賞作。日露戦争前夜の1899年から太平洋戦争後の1955年まで、満洲の架空の町に中・露・日の実在の人物や架空の人物が入り乱れる。近現代史をおさらいするような史実を骨格に、血や肉は都市建築という壮大な夢でできているのが「冒険小説」(宮部みゆき氏の講評)たる所以。反戦小説でも好戦小説でもない視座に歴史の光と影を感じる。

『高学歴親という病』/成田奈緒子/講談社+α新書/990円

『高学歴親という病』/成田奈緒子/講談社+α新書/990円

医学部で山中伸弥氏と同級生だった博士が説く「子育て」は「脳育て」(成田奈緒子氏著『高学歴親という病』)

 かねてより思ってた。高学歴の人が聡明とは限らない。高“学校”歴ではないか、と。本書の高学歴親とはその高学校歴の親と、我が子に願いを託す親のこと。特徴は過保護や過干渉、知の偏重。脳には発達段階がある。0~5才は睡眠と食事と運動の脳、1~18才はおりこうさん(人間らしさ)の脳、10~18才は心(社会)の脳を育てるべし、と。著者の子育てエピソードも笑えて素敵。

『アンダークラス』/相場英雄/小学館文庫/1034円

『アンダークラス』/相場英雄/小学館文庫/1034円

ご当地グルメも楽しい“出張ミステリー”。下層も、上層転落を恐れる者も、哀しい(相場英雄氏著『アンダークラス』)

 老人施設に入居する85才の老女の自殺を幇助したとして勾留されたベトナム人介護士アイン。が、この事件にはもっと複雑な要素があると、ノンキャリ老刑事と女性キャリアがコンビで捜査を始める。搾取される技能実習生、強欲な多国籍IT企業、しぼむ地域経済など、捜査の過程で“ニッポンの論点”が噴出。藻谷浩介氏が解説で“心のない奴こそ下流”とする至言に深く頷く。

文/温水ゆかり

関連記事

トピックス

都内の人気カフェで目撃された田中将大&里田まい夫妻(時事通信フォト/HPより))
《ファーム暮らしの夫と妻・里田まい》巨人・田中将大が人気カフェデートで見せた束の間の微笑…日米通算200勝を目前に「1軍から声が掛からない事情」
NEWSポストセブン
浅草・浅草寺で撮影された台湾人観光客の写真が物議を醸している(Xより)
「私に群がる日本のファンたち…」浅草・台湾人観光客の“#羞恥任務”が物議、ITジャーナリスト解説「炎上も計算の内かもしれません」
NEWSポストセブン
新横綱・大の里(時事通信フォト)
《横綱昇進》祖父が語る“怪物”大の里の子ども時代「生まれたときから大きく、朝ご飯は2回」「負けず嫌いじゃなかった」
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
《スヤスヤ寝顔動画で話題の佳子さま》「メイクは引き算くらいがちょうどよいのでは…」ブラジル訪問の“まるでファッションショー”な日替わり衣装、専門家がワンポイントアドバイス【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
ヤクザが路上で客引きをしていた男性を脅すのにトクリュウを呼んで逮捕された(時事通信フォト)
《ヤクザとトクリュウの上下関係が不明に》大阪ミナミでトクリュウを集めて客引き男性を脅して暴力団幹部が逮捕 この事件で”用心棒”はどっちだったのか 
NEWSポストセブン
2013年大阪桐蔭の春夏甲子園出場に主力として貢献した福森大翔(本人提供)
【10万人に6例未満のがんと闘う甲子園のスター】絶望を支える妻の献身「私が治すから大丈夫」オリックス・森友哉、元阪神・西岡や岩田も応援
NEWSポストセブン
新横綱・大の里(時事通信フォト))
《地元秘話》横綱昇進の“怪物”大の里は唯一無二の愛されキャラ「トイレにひとりで行けないくらい怖がり」「友達も多くてニコニコしてかわいい子だったわ」
NEWSポストセブン
ミスタープロ野球として、日本中から愛された長嶋茂雄さんが6月3日、89才で亡くなった
長島三奈さん、自身の誕生日に父・長嶋茂雄さんが死去 どんな思いで偉大すぎる父を長年サポートし続けてきたのか
女性セブン
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
金髪美女インフルエンサー(26)が “性的暴力を助長する”と批判殺到の「ふれあい動物園」企画直前にアカウント停止《1000人以上の男性と関係を持つ企画で話題に》
NEWSポストセブン
逮捕された波多野佑哉容疑者(共同通信)。現場になったラブホテル
《名古屋・美人局殺人》「事件現場の“女子大エリア”は治安が悪い」金髪ロングヘアの容疑者女性(19)が被害男性(32)に密着し…事件30分前に見せていた“親密そうな様子”
NEWSポストセブン
東京・昭島市周辺地域の下水処理を行っている多摩川上流水再生センター
《ウンコは資源》排泄大国ニッポンが抱える“黄金の資源”を活用できてない問題「江戸時代の取引金額は10億円前後」「北朝鮮では売買・窃盗の対象にも」
NEWSポストセブン
ブラジル公式訪問中の佳子さま(時事通信フォト)
《佳子さまの寝顔がSNSで拡散》「本当に美しくて、まるで人形みたい」の声も 識者が解説する佳子さま“現地フィーバー”のワケ
NEWSポストセブン