他のピッチャーとも話すダルビッシュ有
宇田川会の詳細がメディアで報じられ、その憎めないキャラクターに加え、150キロ超の剛速球を投げる宇田川は投手陣の中心人物に。するとダルはこう笑った。
「遠くにいってしまいました」
合宿中に睡眠に悩んでいるという湯浅京己(阪神)から相談を受けると、ダルはグミをプレゼントした。
「昨日ウエイトルームで、いわゆる入眠はできるけど、『夜中に起きてしまう』と(湯浅が)言っていて。ちょうど睡眠効果のあるグミを僕が持っていたので、『これ試してみて』と渡しました」
ダルの何気ない言動によって、瞬く間に若き侍たちの心を掌握していった。ダルが危惧していた警戒など誰もしていない。
「いや、自分がずっと喋っているので、『この人大丈夫かな』とより警戒されているかもしれない(笑)」
野球選手である前に
第2クールでは昨季の三冠王で56本塁打男の村上宗隆(東京ヤクルト)とライブBP(バッティング・プラクティス)で対戦し、初球の直球で空振りを奪う。しかし、4球目に投げたフロントドアのツーシームが高めに浮くと、村上が見事にアジャストする。打球は大きな放物線を描き、バックスクリーンに吸い込まれた。ダル自身が要求した再戦でもレフト前へ運ばれてしまう。
「こんなところで“公開処刑”されて……悲しいです(取材現場は大爆笑)」
大谷翔平(エンゼルス)の不在を微塵も感じさせぬほど、ダルは話題を提供し、意図せずとも侍ジャパンの牽引者となっていた。
ダルは「独身の頃は野球選手であることを一番に考えていた」と話す。再婚したのは2016年だ。元レスリング選手の妻・聖子さんとの間に三男一女も生まれた。
「結婚して、一番の役割は夫であること。2番目に父親であることがきて、そのあとが野球選手です」
野球選手である前に父であり、父である前に夫である──誰がダルビッシュ有を変えたのか。その答えが彼自身の言葉の中にあった。
第2クールの最終日となった2月23日、野暮とは理解しつつも改めてその言葉の真意を問うた。
「妻と一緒になったことで、子どもたちが生まれた。子どもたちには一番近くの人を大事にしてほしい気持ちがある。それを言葉で伝えるのではなく、そういう環境で実際に生活するほうが自然とそういうふう(生き方)になりやすいと思う」
そして、こう続けた。
「単純に、自分はそれだけ妻が好きやということです。……はい、ありがとうございました」
最後は照れくさそうに取材を切り上げ、そそくさとロッカールームに消えていった。
【了。前編から読む】
撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2023年3月10・17日号