「闇バイト」の勧誘。逮捕されていない、という文言はよく使われるようだ(時事通信フォト)

「闇バイト」の勧誘。逮捕されていない、という文言はよく使われるようだ(時事通信フォト)

 しかし、SNSを経由しての高額報酬をうたう仕事の誘いには、繰り返し注意喚起がされてきたのも事実。それらに応募してしまった人たちの大半が、普通ではないことに関わろうとしている危うさはどこかで感じていたはずだ。それにも関わらず接触して戻れなくなった彼らになぜと聞くと「魔が差した」とか「出来心が」と口にする。ではなぜ魔が差したのか、なぜ出来心が生まれたのかと聞くと、皆、押し黙る。

「ヤバい仕事」から「頑張ればもっと稼げる」と思考が歪んだ

 かつて、中国から日本国内に税務署を装い電話をかけ、高齢者から金をだまし取ったとして逮捕された緒方一平さん(仮名・30代)が振り返る。

「当時は音楽活動をやっていてフリーターだったんですが、自分の怠けで生活費が困窮していた。ただ、バンドの方の調子がすこしずつ良くなってきて、すぐに迫ったライブの遠征費や活動費が捻出できなくなっていました。短期間でさっと稼げる仕事はないかと思い、Twitterの闇バイトに応募したんです」(緒方さん)

 緒方さんを悪い意味で後押ししたのは、受け子や出し子だけなら「捕まらない」可能性が高いとする記事を、ネットで読んだ経験だった。そこには、詐欺の勧誘において使われる「テレグラム」や、類似アプリ「シグナル」を使えば足がつくことはない、等と書かれていたという。

「初めてTwitterの高額バイト募集のアカウントにメッセージを送った後、テレグラムでやりとりをするように指示され、直接会話もしました。バイトは“受け子”であることも、それが犯罪であることも正直に言われます。その上で、逮捕者はたくさんいるが、うまくやって捕まらない奴の方が多いとか、うちの“グループ”から逮捕者は一人も出ていないとも説明されます。逆に、ここまで話してくれるのなら信用できる、と感じてしまったんです」(緒方さん)

 できるだけ早く、10万円でいいから用意しなくてはならない。追い込まれた状況にあった緒方さんの思考は、正常さを失っていた。「うまくやればバレない」と説き伏せられ、それをまんまと信じてしまった緒方さんは実際に2度、銀行口座から金を引き出す「出し子」をして、それぞれ3万円、2万円の報酬を受け取っている。

 もちろん、通常であれば、受け子も出し子も犯罪であることは理解できていた。だが、目前に迫ったライブのことを考えれば「多少のことは仕方ない」と思ってしまった。詐欺電話をしたり直接被害者宅を訪問するよりも、出し子であれば罪は軽いのではないか、万一捕まったとしても、何も知らなかったと言い張れば無事かも知れないと、自分に都合がよいように思考を歪めていった。指示役の巧みな誘導により、立派な犯罪である「受け子」なら、何度かやっても大丈夫ではないかと、いつの間にか思い込んでしまったという。

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