Twitterなどで闇バイトに応募するとテレグラムやシグナルへと誘導される(Sipa USA/時事通信フォト)

Twitterなどで闇バイトに応募するとテレグラムやシグナルへと誘導される(Sipa USA/時事通信フォト)

「結局、ライブまでにはお金は用意できませんでしたが、もう少しだけ”がんばって”、まとまった金を手に入れてからやめようという気になっていました。完全に常軌を逸していますが、当時はこれを仕事だと感じてしまっていました」(緒方さん)

 冷静な状態であれば、犯罪を仕事と捉えることの愚かさを自覚できたかも知れない。だが、報連相(報告・連絡・相談)が大事だとか、うまくいったときは褒めるとか、指示役は、仕事を成し遂げるかのようなミッション遂行の雰囲気を盛り上げて受け子を飲み込み、認知を歪ませてゆく。その様子は、一見すると一般の会社の上司と部下のやりとりかのようでもある。そういった歪んだ仕事の雰囲気に取り込まれてしまった緒方さんは、さらに踏み込んだ「業務」を与えられ、応えてしまう。結果として3度目の犯行となったそれは、中国から日本国内に向け詐欺電話をかけるというものだった。

「簡単に金が手に入ると思い、もっと稼ぎたいのなら中国での仕事もあると勧誘され、乗っかってしまいました。しかしいざ行ってみると、中国の空港に到着後すぐスマホは没収。監視員付きのホテルに軟禁され、電話をかけるオフィス部屋からとにかく毎日電話をかけまくる。報酬も事前の説明とは違い少なく、文句を言うと“中国国内で逮捕されたら死刑だよ”と脅される。ここで初めて騙されたことに気がつきました。日本ではないから簡単に逃げ出せない、捕まったら死刑、かけ子までやれば言い逃れはできないが、もうやるしかないと」(緒方さん)

 中国の拠点が現地当局によって摘発され、日本に強制送還された緒方さんは逮捕され、実刑判決を受けた。「出し子」と「かけ子」は窃盗罪、「受け子」は詐欺罪で裁かれることが多い。かつては初犯であれば執行猶予がつくことが多かったが、特殊詐欺に対しては最近、厳罰に処される傾向がある。

「どんな状態だったとしても、バレなければ犯罪でも大丈夫、相手に危害を加えず金を取るだけだから罪は軽い、という考えがあまりにも安易すぎました。結局最後は逃げ出せなくなる。そこで気がついても遅いんです」(緒方さん)

犯罪の認識を薄めるために口調を使い分ける

 追い込まれた状態にあるとき、人間は物事を自分に都合よく思考してしまいがちだ。人の心には、平穏を保つために、多少、危険なことが起きても正常の範囲内であると考えてしまう「正常性バイアス」と呼ばれる特性がある。認知の歪みを起こしてしまうこの状態を、末端の実行犯役を勧誘するリクルーター役は、当然、熟知している。元暴力団員で、勧誘役の経験がある友田浩二さん(仮名・30代)が証言する。

「連絡してくるのは、金に困った奴、追い込まれてる奴が100%。まずは安心させ、仲間だと思わせる。絶対にバレない、上手くいくと説き伏せるんです。犯罪に荷担している認識を薄めるために、堅いビジネス口調だったり砕けた感じを使い分ける。1にも2にも金が欲しい奴らばかりだから、その目的の為に、仕事を紹介してあげるコンサルみたいな事をやって、自分が何をやっているか、考えさせない状態にする。その上で目標を達成する為なのだからと犯罪行為などきつい要求をのませる」(友田さん)

関連キーワード

関連記事

トピックス

NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』の打ち上げに参加したベッキー
《ザックリ背面ジッパーつきドレス着用》ベッキー、大河ドラマの打ち上げに際立つ服装で参加して関係者と話し込む「充実した日々」
NEWSポストセブン
三田寛子(時事通信フォト)
「あの嫁は何なんだ」「坊っちゃんが可哀想」三田寛子が過ごした苦労続きの新婚時代…新妻・能條愛未を“全力サポート”する理由
NEWSポストセブン
雅子さまが三重県をご訪問(共同通信社)
《お洒落とは》フェラガモ歴30年の雅子さま、三重県ご訪問でお持ちの愛用バッグに込められた“美学” 愛子さまにも受け継がれる「サステナブルの心」
NEWSポストセブン
大相撲九州場所
九州場所「17年連続15日皆勤」の溜席の博多美人はなぜ通い続けられるのか 身支度は大変だが「江戸時代にタイムトリップしているような気持ちになれる」と語る
NEWSポストセブン
一般女性との不倫が報じられた中村芝翫
《芝翫と愛人の半同棲にモヤモヤ》中村橋之助、婚約発表のウラで周囲に相談していた「父の不倫状況」…関係者が明かした「現在」とは
NEWSポストセブン
山本由伸選手とモデルのNiki(共同通信/Instagramより)
《噂のパートナーNiki》この1年で変化していた山本由伸との“関係性”「今年は球場で彼女の姿を見なかった」プライバシー警戒を強めるきっかけになった出来事
NEWSポストセブン
マレーシアのマルチタレント「Namewee(ネームウィー)」(時事通信フォト)
人気ラッパー・ネームウィーが“ナースの女神”殺人事件関与疑惑で当局が拘束、過去には日本人セクシー女優との過激MVも制作《エクスタシー所持で逮捕も》
NEWSポストセブン
デコピンを抱えて試合を観戦する真美子さん(時事通信フォト)
《真美子さんが“晴れ舞台”に選んだハイブラワンピ》大谷翔平、MVP受賞を見届けた“TPOわきまえファッション”【デコピンコーデが話題】
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組・司忍組長2月引退》“竹内七代目”誕生の分岐点は「司組長の誕生日」か 抗争終結宣言後も飛び交う「情報戦」 
NEWSポストセブン
活動を再開する河下楽
《独占告白》元関西ジュニア・河下楽、アルバイト掛け持ち生活のなか活動再開へ…退所きっかけとなった騒動については「本当に申し訳ないです」
NEWSポストセブン
ハワイ別荘の裁判が長期化している
《MVP受賞のウラで》大谷翔平、ハワイ別荘泥沼訴訟は長期化か…“真美子さんの誕生日直前に審問”が決定、大谷側は「カウンター訴訟」可能性を明記
NEWSポストセブン
11月1日、学習院大学の学園祭に足を運ばれた愛子さま(時事通信フォト)
《ひっきりなしにイケメンたちが》愛子さま、スマホとパンフを手にテンション爆アゲ…母校の学祭で“メンズアイドル”のパフォーマンスをご観覧
NEWSポストセブン