通信アプリ「テレグラム」。闇バイトに応募すると、その後の連絡はテレグラムを利用するように指示される(時事通信フォト)

通信アプリ「テレグラム」。闇バイトに応募すると、その後の連絡はテレグラムを利用するように指示される(時事通信フォト)

 大阪府在住の住宅販売店勤務・吉岡昌之さん(仮名・40代)は、およそ5年前にある特殊詐欺事件で「受け子」を働いたとして逮捕された。しかし、初犯であり犯行は一件のみ、また、吉岡さんが「脅されていた」事実が裁判で認められ、また特殊詐欺への厳罰化がすすむ前だったこともあり、実刑判決は免れた。犯行当時、吉岡さんはとある事情で金が必要だった。

「お恥ずかしい話、ギャンブルの借金があり多重債務状態でした。仕事はしていましたが、コロナのおかげで仕事が減り、返済金が月給を超えるようになってからは闇金も使い、それさえ借りられなくなって、犯罪だとは思いながらSNSの書き込みを見て応募したんです。その後、匿名性が極めて高いとされるメッセージアプリ『テレグラム』を使って面接担当者と会話し、免許証と顔が一緒に写った写真を要求されるがまま、送りました」(吉岡さん)

 吉岡さんはその後まもなく、関東の某ターミナル駅のコインロッカー付近で、巡回中の警察官によって逮捕される。指定されたコインロッカーから金を取り出す直前だった。

「実は、躊躇していたんです。“仕事”の前日になっても、報酬がいくらなのかハッキリ教えてくれないし、やったら後戻りできない。そうしたら指示役から、仕事をキャンセルするなら金を払え、払えないのなら家の“クラウン”を売ってでも金を作れ、と。さらに祖父の名前まで出してきて、これは脅されているんだと気がつき、犯行当日の朝、やるしかないと覚悟を決めて東京に向かいました」(吉岡さん)

 筆者が取材した、複数の元“指示役”らの証言と照らし合わせると、自家用車や家族の名前を探し出すのは、実行役を追い詰める常套手段である。SNSで応募してきた実行役候補の人物に、確認のためなどと理由をつけて免許証の画像を送らせる。その画像から分かる住所をGoogleマップで検索すれば、容易に「居住実態のある住所か」を確認できるし、ストリートビューで建物の外観が確認できるから実家かそうでないかもある程度はわかる。ネット上に残る古い電話帳情報が載る「電話番号サイト」を用いれば、住所から逆引きで固定回線の登録者名(親や祖父などの世代が多いだろう)をたどれることもある。家族の名前を把握できるというわけだ。また、SNSやニュース記事など、無料のネット公開情報を検索するだけで、SNSで応募してきた無名の人の個人情報の輪郭が見えてくる。

 吉岡さんは、こちらから伝えていないはずの家族名や車の車種まで知られていることで怖くなってしまった。そして、家族に危害が及ぶかもしれないと感じて、よくないと知りつつも、「受け子」として指示されたとおりの動きをした。

 広域強盗事件の実行犯役として逮捕された容疑者達の多くも「脅されていた」と供述している。見つかりさえしなければ割の良いバイトだと、軽い気持ちでスマホをタップして連絡をとり、普通のアルバイトのように、意に沿わなければ断ればよいと考えていたかもしれない。だが、いったんやりとりを始めたら最後、結局は脅され、騙されたあげくに使い捨てされるのだ。

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