特殊詐欺に加担する「闇バイト」について注意喚起する画像[警視庁犯罪抑止対策本部提供](時事通信フォト)
このようなテクニックにより勧誘された人々の多くは、犯行直前に怯む。怯めば、事前に入手しておいた個人情報を使った脅しが始まるが、脅されなくとも、自ら積極的に犯行に荷担する人間も少なからず存在するのだとも話す。
「移動費の前払いや、事前に説明したとおりの報酬をきちんと出すことで、脅さなくともやる気を出して次から次に仕事をこなす奴もいます。中には、幹部連中から酒とか女の接待を受けて、俺も指示役に回りたい、ハコ(詐欺の拠点)のオーナーになりたいと夢を語り出す場合もある。確かにかつては、田舎の不良が受け子や出し子をやって上にのし上がった例もありますが、今はその可能性は全くない。完全な使い捨て。タタキ(強盗)とか殺しまでやらせるのは、そういうことです」(友田さん)
特殊詐欺事件の取材を続けていると、犯行に関与した疑いが濃厚だと長年言われている人物や組織が検挙されず、野放しになっているという実態に直面する機会は多い。ある意味で「成功者」とも言えるそういった人々の姿を夢見て末端の犯行に加わる若者も後を絶たないが、そのほとんどが騙されたり使い捨てにされ、そのあげく自ら犯罪者として検挙されるのだ。
SNSでのあやしい求人には用心すべしと、繰り返し報じられているのになぜ、犯行に及んでしまうのか。馬鹿だから、思考が足りないと切り捨てるのは簡単だが、彼らにもう少し冷静な判断ができなかったかという疑問は残る。正常な判断ができないような状態に追い込まれたのも、当然本人の責任によるところが大きい。だが、誰一人「犯罪をしたかった」という犯行経験者はおらず、同じような状態に陥ってしまう可能性は誰にでもある。そうした万一の時に踏みとどまることができるか。ここで紹介した経験者の話が、その一助になればと願う。