山口放火殺人・男の自宅に残された貼り紙この張り紙は大きな話題になった(時事通信フォト)
裏切られた「Uターンハイ」
「すごいバーを作って、外は飲み屋のようにネオンがつくようにしちょった。中もお店みたいじゃったよ」
「シルバーハウスHOMI」を訪れたことのある村人は言う。だがすぐに、誰もそこに行かなくなった。
「そうするためには、やっぱり人間関係がないとねえ」
ワタルは自作の新宅を皆の新しい拠点として、郷集落を盛り上げようと希望に胸を膨らませていたが、真っ暗な村に一軒だけネオンが輝くさまは不釣り合いであり、浮いていた。そしてワタル自身も、まず信頼関係を築く前に、近代的な家の設備で村人たちを呼び寄せようとしたことが裏目に出た。「Uターンハイ」とでも形容できるような状態になっていたのだろう。
都会から戻ってきた俺が、こんなにすごい家を作ったぞ。これで村も盛り上がる。さあ、皆ここに集まってくれ……。そんな思いを抱いていたのではないだろうか。
しかし、年長者ばかりのこの村で、それは通用しなかった。やはり村に戻ってきたからには自治会に参加し、数カ月に一度行われる草むしりなどの仕事にも精を出し、先輩となる村人たちとの調和を図るのが第一だろう。冷静に見てもたしかに、それらの「手順」を飛び越して村人たちに家に来てもらうという案は強引に映る。
歓迎会の段階から、ワタルは村人にあまり良い印象を抱かれてはいなかった。都会帰りでハイな状態のワタルは、村人たちにとっては、うっとうしかったのかもしれない。この村を盛り上げるためのワタルなりの村おこし……新宅を村人たちの交流の拠点とする案は、あっさりと年長者たちに否定されてしまったのだ。
【了。前編から読む】
※文庫『つけびの村 山口連続放火殺人事件を追う』から一部抜粋