春らしい暖かな日が増えてきた。こんな季節には、読書をして、知的好奇心を満たしてみるのもいいだろう。春におすすめの新刊4冊を紹介する。
『きれいな言葉より素直な叫び』/新井見枝香/講談社/1870円
『本屋の新井』(←書名です)さん、ストリップ劇場の客になり、ついに自身も踊り子デビューする。初舞台を前に「愉快なことは、これから始まるのだ」と気持ちは高ぶるが、順風満帆ではない。尊敬する樹音姐さんの大事故、コロナ禍での劇場の苦境、落ちていく体重、悪魔のような客。エロとは何か、なぜ踊り子に執着するのか。著者の自分との対話の旅はまだまだ続きそう。
『僕の女を探しているんだ』/井上荒野/新潮社/1870円
背が高く、すらっとした体ときれいな顔を持った彼。悲しむ少女の前に、遊ばれるゲイの青年の前に、買い物間違いを妻に責められミニ家出した中年男性の前に現れ、わだかまりや悲哀を溶かす不思議な力を発揮する。と書いた所で、わ、これ『愛の不時着』へのオマージュなんですって! み、見てません、ス、スミマセン。でもこれ大人の魔法の時間。すごく幸福な気持ちになれます。
『名著入門 日本近代文学50選』/平田オリザ/朝日新書/935円
エリート臭漂う苦悩文学、露悪的な私小説、短編小説という新ジャンル、戦争文学など、名著誕生と時代精神の関わりを、ユーモア交じりの軽快な筆で書く。著者が生で聞いた物故作家のこんな言葉も金言。「現代の風俗べったりにすると、すぐに色あせてしまう」(井上ひさし)、「励ますことも大事だが」、真の復興には「きちんと嘆き悲しむこと」が大事(3.11直後に、別役実)。
小学館の図鑑NEOアート『図解 はじめての絵画』監修/青柳正規/小学館/2970円
絵画発達史的な構成かと思いきや、トピックごと。例えば「透明なものってどう描くの?」では喜多川歌麿の浮世絵とマティスの金魚(鉢)の絵が見開きに収まる。「大根さまの冥福を祈って」というちょっと笑っちゃうような項では、青物問屋を継いだ伊藤若冲がブッダの死の場面(涅槃図)にのっとり野菜や果物を描いたことが分かり厳粛な気持ちに。時間を忘れさせる充実の図鑑だ。
文/温水ゆかり
※女性セブン2023年3月30日・4月6日号