子どもの頃から料理や料理本が大好きだったと語る湯澤教授
本屋でレシピ本を眺めるのが趣味でした
──「おふくろの味」=「ほっとする味」とも言われますが、この「ほっとする味」とは何でしょうか?
多幸感とか、幸せな気持ちを味わう味、ということでしょうね。その代名詞として「おふくろの味」が使われてきましたが、いまや幸せどころか、「圧」を感じて苦しくなる人もいるということで、2000年代以降、使われなくなっていきました。次に出てくる言葉として、最近では、「コンフォート・フード」という言葉が使われたりもしますね。
いずれにしても、この「幸せになる味」を、これまでは女性やお母さんに背負わせすぎていたわけです。そこだけに頼るのはもうやめて、お兄さんにもお父さんにも、定食屋のおばさんやおじさんにも、それからコンビニにもスーパーにも、つまり家庭の「外」に開いていこうというフェーズに入っているのではないでしょうか。
──料理を開いていこう、というメッセージを本書からは感じます。
料理の議論が、とかく男性が作るのか、女性が作るのかというジェンダー論になりがちなのは、「料理」=「家庭」に閉じているからでもあります。もう少し開いて、「おふくろの味」にもともと託されていた、郷土の味、季節の味、素材の味、作り手の持ち味といった広い概念に戻っていけたらいいんじゃないかと。そうした動きが実際に出てきていると感じます。
料理が苦行になり、誰が作るかを戦わせていって、最終的にAIが作ればいい、サプリメントだけ食べていればいい……みたいな未来はディストピアだと思うんです。私自身が料理が好きなので、生きることに直結する料理や食は、人を元気に、幸せにするものであってほしいんですね。