2008年5月に行われたフリーター労組のデモ。「まともに暮らせる賃金を」「ピンハネはやめろ」などと訴えた(時事通信フォト)
その仕事が嫌だからではなく他に仕事があるからその仕事が選ばれない、これは店や経営者の問題より大きな社会構造の変化によるものだから確かに怖い。先の「急激な社会環境変化への対応遅れ」は日本経済全体に言える話かもしれない。それは少子化に代表される人口減であり、価値観の多様化であり、そして日本人の働き方とその趣向の変化にある。
「昔は大卒で就職が決まらない子も大勢いた。それも一流大学だ。安い時給で店を仕切ってくれたが、いまはそんな都合のいい若い子は来ない。私は『時代が変わった』と認識しているが、同業のオーナーの中にはその時代の感覚で『優秀な若い子が来ない』と愚痴る者もいるし、ベテランの中にはいまだに『代わりはいくらでも来る』と思っている者もいる。それで来ればいいが来ない。結局そのオーナーが1日中働いている」
仕事の豊富な都会と地方、地域性もあるのだろうが、やはり「代わりはいくらでもいる」というフレーズは日本における30年間の失われた時代を象徴する言葉だったように思う。あの時代の感覚のままアップデートできずに「人が来ない」「優秀な人を安く使いたい」という経営者はいまだ一定数存在する。優秀な若者を安い時給で使えた旨味が忘れられない。
中高年シニアを積極採用しているが……
人手不足はコンビニだけではない。40代の大手牛丼チェーン社員の話。
「いまだに本部の中には店舗スタッフ採用を甘く見ている幹部がいる。氷河期世代の優秀な若者が長期間働いてくれた昔の感覚が抜けないのだと思う。ときに『厳選しろ』などと言われるが、もはやこちらが選べる立場ではない。来てくれたら『働いていただく』になっている。時給は他の外食に比べれば悪くないと思うが、それでも他の人気の仕事に比べれば魅力はないと思う」
率直に話してくれたが、ここでも人手不足は深刻だ。大手牛丼チェーンに限らず外食を中心に人員の不足で「臨時休業」「時短」の店舗が出始めている。
「都心の店舗に限れば独身でワンルームに住むようなフリーターが減ったように思う。昔はそういう人が多かった。夢追い人だけでなく、優秀な大学を卒業しているような若者も来てくれた。それで社員になった者もいる。しかしいまの若者は他にいくらでも仕事があるし、言い方が難しいが昔ならうちのアルバイトでも採用しないな、という若者でもそれなりの人気業種に就職していたりする。それも正社員が当たり前だ。そんな人気業種と取り合いして勝てるわけがないし、正直、私も就職の厳しい時代の人間だったので羨ましく思う」