いわゆる「夜の街」バッシングや緊急事態宣言での狙い撃ちなど仕方のない部分はあったのかもしれないが、保身に走った業界もまた居酒屋チェーンということか。
「全部ではないが、多くはそうだと思う。うちもそうだ。それでスタッフが戻らない、人手が足りないと言うのは虫のいい話だ。かつてネットで散々叩かれた居酒屋チェーンの創業者もそうだが、業界の体質としてブラックで当たり前、だからどうしたという空気もあった。業界そのものが見限られてしまっているのでは」
あくまで彼の考えだが突き放した言いよう。まだ30代、彼もまた転職を考えているという。
人手不足が深刻なこの国で、とくに重症化している外食産業。帝国データバンクによれば2023年4月は過去最多の30件が「人手不足」で倒産した。2013年1月からの統計でもっとも多い数字で、業種別ではサービス業と建設業がもっとも多かった。コロナ禍で露呈した業界の問題とアフターコロナへの対応の出遅れ、そしてこれまでの低賃金、重労働といった待遇の悪さと「ブラック」とされてきたイメージが蓄積された結果もあるのかもしれない。飲食や建設と同様に運輸、福祉、教育などの現場もまた人手不足に悲鳴を上げている。
冒頭のオーナーは「頼みの外国人すら、以前ほどは集まらなくなった」とも語っていた。また「省人化しか手立てはない」とも。結局のところ「賃金が安くて重労働かつ居心地の悪い環境で働きたくない」「働けるなら、より働きたいと思える仕事、職場」という当たり前の話が、少子化と疫禍によって露呈したということか。もちろん地域差はある。しかし少子化という絶対的かつ不可避な要因のある限り、全国への波及はそう遅くはないように思う。地方の場合はただでさえ少ない若者の流出という問題もある。頼みだった外国人技能実習生すら地元に残らず都市部、あるいは再び海外に流出してしまう問題が報じられている。
これまで選ばれなかった日本の労働者たちが、徐々に選ぶ側になりつつある。「代わりはいくらでもいる」と捨てられた労働者もまた、選ぶ側にまわりつつある。この急激な社会環境変化に対応するため、いまだはびこる「代わりはいくらでもいる」という旧態依然の体質を改めない限り、この人手不足は解消されることがないどころか、いまも現場に残る労働者にまで見切りをつけられてしまうかもしれない。
【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。社会問題、社会倫理のルポルタージュを手掛ける。