2023年5月11日、報道陣に公開された、東海道新幹線の自動運転システムを導入するための走行試験(時事通信フォト)
運転士は一朝一夕には養成できない。一人前の運転士を養成するのには、費用も歳月も必要になる。そのため、あらかじめ運転士が不足することを見越して職員を採用し、その後に4、5年かけて育成する。
これまで鉄道事業者は、そうした人材育成の期間を見越して職員を採用していた。しかし、少子高齢化や人口減少が急激に進んだことにより、運転士不足が想定を上回ってしまったのだ。
大手の鉄道事業者は運転士不足という事態に対応するため、自動運転の実証実験を活発化させている。例えば、JR東海は東海道新幹線に自動運転を導入するべく実証実験を繰り返し、5月11日にはその様子を報道公開した。
JR東日本と東武鉄道が共同ですすめる自動運転
東海道新幹線には踏切がない。そのため、自動運転化は比較的に実現しやすい環境にある。とはいえ、新幹線が時速300キロメートル前後で走ることを考慮すれば、絶対に事故やトラブルは起こせない。また駅間も長く、駅と駅の途中でトラブルが起きれば、救助の人が駆けつけるのにも時間を要する。
どんなに万全の安全体制を築いていても、事故やトラブルは起きてしまう。そんな万が一の事故やトラブルが起きることを想定して、列車内にも人員を配置しなければならない。
それでも乗務員を配置するだけで済む。免許を必要とする運転士と比べれば、乗務員の育成は比較的容易のため、鉄道各社から自動運転は運転士不足の解消につながると期待されている。
「東武はGoA(ゴア)3を目指して、2023年度中に大師線で自動運転の実証実験を開始する予定です。自動運転の実現に向けた検証は、JR東日本と共同で進めています」と説明するのは、東武鉄道広報部の担当者だ。
大師線は西新井駅―大師前駅間の約1.0キロメートルの短い路線で、中間に駅はない。つまり、大師線の電車は西新井駅と大師前駅を行ったり来たりする路線だ。そうした状況にあるため、2003年にはワンマン化され、自動運転の実証実験路線にも選ばれた。
鉄道の自動運転は、GoA(Grades of Automation)と呼ばれる規格で段階により0~4まである。東武が目指すGoA3は「添乗員付き自動運転(DTO=Driverless Train Operation)」に該当し、列車に係員が乗車し、事故やトラブル発生時に避難誘導などをするレベルの自動運転をいう。千葉県の舞浜駅から東京ディズニーリゾートを周回するモノレールのディズニーリゾートラインがこれに該当するレベルの自動運転で運行されている。