初小説『一朝の夢』では新色の朝顔の開発に命すら賭す同心を。また本作では一時は百羽近い鳥を飼い、その色や声を競った馬琴ら趣味人の姿を、梶氏はこの時代の豊かさに魅入られた1人として縦横に活写する。
「趣味とか道楽とか、そういうものが好きなんです。一方で小鳥の尾羽を切り、文字通り〈籠の鳥〉にするのは、食物連鎖一等賞の人間の驕りだというのが私のペット観で、だからこそ精一杯世話をしたりする矛盾も、興味深いんです」
店という存在に縛られるおけいは一見籠の鳥に見えなくもない。が、人はそこに居ながら立つこともでき、ここではないどこかに飛び発つのだけが自由ではないのだ。
【プロフィール】
梶よう子(かじ・ようこ)/東京生まれ。フリーライターを経て、2005年に「い草の花」で第12回九州さが大衆文学賞大賞。2008年に第15回松本清張賞受賞作『一朝の夢』でデビューし、2016年『ヨイ豊』で第5回歴史時代作家クラブ賞作品賞、2023年『広重ぶるう』で第42回新田次郎文学賞を受賞。著書は他に「御薬園同心水上草介」シリーズや『北斎まんだら』『本日も晴天なり 鉄砲同心つつじ暦』『噂を売る男 藤岡屋由蔵』『空を駆ける』『我、鉄路を拓かん』等多数。156cm、A型。
構成/橋本紀子 撮影/国府田利光
※週刊ポスト2023年6月9・16日号