ただ、このフライングスタートはメリットだけではありません。もともと「各季節に連ドラを一斉スタートすること」は、配信ドラマにはない地上波ドラマならではの強み。各局が足並みをそろえて一斉スタートするからこそ、「今期は何を見る?」という話題性が生まれ、「これが面白そう」などの期待感を高め、放送時にはツイートされやすい状況につなげることができます。もしフライングスタートする連ドラが増えてしまったら、この流れを壊してしまうことになりかねません。
一方、配信ドラマの中にも称賛を集めるものはありますが、やはり有料コンテンツである上に、個人が好きなタイミングで見るため、盛り上がりとしては散発的。たとえば昨秋に放送された『silent』(フジテレビ系)のような「木曜22時を中心に盛り上がろう」というムーブメントにつなげるのは難しいでしょう。「一斉スタート」は、古い習慣を踏襲しているだけで時代錯誤などと思われがちですが、まだまだ大きなメリットを得られているのです。
フライングスタートは6月だけに留めておいたほうが、テレビ業界にとっては無難なのかもしれません。それでも前述したように、配信再生の習慣を止めないために、深夜帯の連ドラはフライングスタートさせる作品がジワジワと増えていくのではないでしょうか。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。