「避難所という日常とは異なる空間では、寛容になれない人もいるでしょう。そもそも動物がきらいな人もいます。そういう人たちに無理強いするのは得策じゃない。人間だけのスペースと『同室避難』のスペースを分け隔てるなどして、多様な意見が共存できるような工夫が必要だと思います」(うささん)
陸くんを犬のスクールで訓練している伍代は、飼い主側の工夫や意識の改善も必要だと語る。
「飼い主は周囲に理解を求めるばかりでなく、愛犬をしつけることも“事前準備”も必要です。陸も毎日、30分なり1時間をクレート(災害時などに活用できる小型キャリー)で過ごす訓練をしています。陸はクレートが好きではないけど、日々の積み重ねで我慢できるようになりました」
伍代が語った飼い主の意識改善にうささんも賛同し、ノミやダニの駆除やワクチン接種など、同室避難を叶えるために飼い主が日頃しておくべき備えがあると指摘する。
「一方で、高齢でワクチンを打てない動物もいて、すべての子が基本条件を満たせるわけではありません。そうした事情を持つ子が排除されることだけは、避けたい。現場でノミやダニの駆除ができる体制など、地域の獣医さんと連携して現実的な同室避難を模索しています」(うささん)
うささんは獣医の体験談として、避難所で支援物資としてのペットフードの受け取りが断られた例を明かし、最低限3日分のペットの非常用食料を準備しておく心構えにも触れた。
「人間で手一杯で動物にまで気が回らない。緊急時はみんないっぱい、いっぱいでそうやって冷たく排除してしまうのもわかります。しかし、災害時こそ、弱者を守る“気持ち”“寛容さ”がほしい。日本の社会にはそうした豊かな心が薄れてきたように感じて、取り戻したいと願います」(伍代)
なぜ、その小さな命が失われてしまったのか──災害で亡くなった動物たちの声なき声に耳を傾け、目の前の命へ手を差し伸べることが、今を生きる私たちに求められる行動ではないだろうか。