暴力団追放を駅前で警視庁が啓発活動(イメージ、時事通信フォト)
若手だった刑事は、ベテラン刑事の行動を「『ごちそうさん』もなく、当然のように昼飯を食べに行っていたことに驚いた」と話す。よく言えば、所轄にある暴力団が問題を起こさないよう見回っていたといえるが、悪くいえば暴力団でタダ飯を食っていたことになる。
「昔はそれで、所轄のマル暴刑事はどんな人物かを見ていたところもある。こちら側に取り込みやすいのか、難しいのか。金で転ぶのか、一筋縄ではいかないのか。信用できるのか、できないのか」と元組長は言う。「利用できるものはどんなものでもうまく利用する。それが仕事なんでね」(元組長)。
飯以外の物は断る微妙な距離
ヤクザに取り込まれて内通者になってしまうことを「闇落ち」というが、ヤクザはこれと思った警察関係者には手を変え品を変え接触し、金に物を言わせてその距離を縮めていく。若手だった刑事は当時を振り返り「飯を食いに行っても、必要がなければ話さない。飯以外の物が出てくれば断るという点は徹底していた。ヤクザに取り込まれず、それでいて情報が取れるよう微妙な距離を取っていたのだろう」と話す。ヤクザと刑事の間には、てはいけない一線があったのだ。
暴対法、暴排条例で規制が厳しくなり、このような刑事の話は聞かなくなった。しかし反対に刑事たちが、ヤクザから情報を取るのが難しくなったのも事実で、刑事たちは暴力団の情報を得るために対象者を探さなければならない。
昔のように事務所に顔なじみの刑事が行くのと違い、刑事が対象者と外で会うには注意が必要だ。喫茶店で話を聞くにも、他の者に刑事と一緒にいる所を見られれば、ヤクザやその関係者にとっては命取りだ。「警察と接触しているのを見られたくない者ほど、内部情報を話してくれる。だから協力者を守るため、マル暴担当はヤクザに風貌を似せる」とある警察関係者は明かす。
刑事がヤクザとの間で適切な距離を保つには、様々なことに気を付けなければならないということだ、