国内

【終戦記念日スペシャル対談:湯川れい子氏×神立尚紀氏】人間爆弾「桜花」とニッポンの戦後の78年

1945年4月、沖縄本島へ上陸した米軍に未使用状態で鹵獲(ろかく)された桜花

1945年4月、沖縄本島へ上陸した米軍に未使用状態で鹵獲(ろかく)された桜花

 終戦から今年で78年。戦時を知る世代も高齢となり、その数は年々減っている。後世にどのように戦争と平和を伝えていけばいいのか──軍人の家系に育った音楽評論家・湯川れい子氏(87)と、これまで500人以上の元軍人・遺族にインタビューをしてきたジャーナリスト・神立尚紀氏(60)が、貴重な思い出と証言を交えて語り合った。【前後編の後編。前編から読む

「桜花」発案者の戦後

神立:(湯川の次兄・湯野川)守正さんはフィリピン・レイテ島沖で敵艦隊への体当たり攻撃を内示されたものの、桜花輸送中の空母が撃沈され、出撃することはありませんでした。特攻兵器・桜花を発案したとされる大田正一という人物についてはご存じでしたか。

湯川:いいえ。神立さんがお書きになった『カミカゼの幽霊』、たいへん興味深く拝読しました。大田さんについては知りませんでしたが、兄も終戦後、地下に潜るようにとの指令を受けていたこともあり、とても感銘を受けました。

神立:守正さんとお話ししている中で大田の名前が出たことは?

湯川:それも一度もありませんでした。

神立:そうですか。それにしても守正さんが生きて帰ってきたときは驚かれたでしょう。

湯川:夜、米沢の家で突然顔を見たときは、腰を抜かさんばかりに驚きました。母はもしかしたら生きているのを知っていたのかも……。

神立:無事復員し、家族水入らずの平穏な暮らしが戻ったわけですね。

湯川:そうはいかなかったんです。兄がしょっちゅう夢にうなされて、夜中に汗だくで飛び起きるんですよ。「まだ行くな!まだ死ぬな!!」と叫んで。いまでいうPTSDのような状態でした。特攻に行く部下を見送る夢を見ていたのでしょうね。

神立:取材者である私にはそういった弱い所は一切見せず、最後まで軍人精神を横溢させていました。ひとたび出撃すれば搭乗員の命が絶対に助からない桜花についても「いまの日本にこれしかないんだったら、これを有効に使ってアメ公どもを地獄に叩き込んでやろうと思っていた」と話してくれました。本土決戦の準備で小松基地にいたときも、「もし敵が上陸してきたら、自分の部隊だけで敵の一個師団をやっつけてやるぞ」と非常に戦意旺盛な方でした。

湯川:いや、それも兄の真実だったと思います。ただ戦後に妹の私が見た兄は、本当に本当に苦しんでいましたよ。

神立:心に深い傷を負ってらっしゃったということですね。大田正一は戦後、名前や年齢を偽って生きたんですが、そういった思いもあったのかもしれません。

湯川:大田さんは残虐な兵器の発案者として白眼視されがちですが、戦況を考えると、あのような自爆兵器が開発された現実はわかると兄は言っていました。自分の乗る機の翼に火がついたら、もう敵機や敵艦にぶち当たっていくしかない。国やそこに住む家族を守ろうと思って戦っている人間にとって、それは仕方がない必然だったと。それが戦争だと。特攻は絶対に許されないことですが、大田さんが考えなくても、別の誰かが考えたんじゃないかと思います。

関連記事

トピックス

杏が日本で入院していた
杏が日本で極秘入院、ワンオペ育児と仕事で限界に ひっきりなしに仕事のオファーも数日間の休みを決断か
女性セブン
都知事選に向けての出馬表明は不鮮明なまま
【最近のコンビニのお弁当は…】多忙を極める小池百合子都知事 同居男性の転居、愛犬との別れ、都庁で若手職員の離職が増加…深まる孤独感
女性セブン
窮地に追い込まれた岸田文雄・首相(時事通信フォト)
【これでは選挙を戦えない】岸田首相の政治資金規正法改正案に自民党内で不満渦巻く 支える者がいなくなった首相の総裁選再選は困難な情勢か
週刊ポスト
活動を休止中のもたいまさこ、今秋ドラマ主演予定の小林聡美
《3年間女優活動ナシ》もたいまさこの復帰願う小林聡美、所属事務所が「終活」で第二の旅立ちへ
NEWSポストセブン
落書きされた靖国神社入口の石柱(中国のSNS「小紅書」より)
【靖国神社に落書き】中国での反応は賛否両論 SNSでは「英雄による義挙」「落書きではなく“訂正”しただけ」など犯人を“英雄視”する動きも
週刊ポスト
中村芝翫と三田寛子(インスタグラムより)
《三田寛子が中村芝翫の愛人との“半同棲先”に突入》「もっとしっかりしなさいよ!」修羅場に響いた妻の怒声、4度目不倫に“仏の顔も3度まで”
NEWSポストセブン
中村七之助の熱愛が発覚
【独占スクープ】中村七之助が京都のナンバーワン芸妓と熱愛、家族公認の仲 本人は「芸達者ですし、真面目なかた」と認める
女性セブン
都内の住宅街を歩くもたいまさこ
《もたいまさこ、表舞台から姿を消して3年》盟友・小林聡美は「普通にしてらっしゃいます」それでも心配される“意欲の低下”と“健康不安”
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告
【戦慄の寝室】瑠奈被告(30)は「目玉入りのガラス瓶、見て!」と母の寝床近くに置き…「頭部からくり抜かれた眼球」浩子被告は耐えられず ススキノ事件初公判
NEWSポストセブン
反自民、非小池都政の姿勢を掲げている
《一時は母子絶縁》都知事選出馬・蓮舫氏、長男が元自民議員との養子縁組解消&アイドルを引退していた
女性セブン
日本中を震撼させた事件の初公判が行われた
【絶望の浴室】瑠奈被告(30)が「おじさんの頭持って帰ってきた」…頭部を見た母は「この世の地獄がここにある」 ススキノ事件初公判
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 名古屋にも抜かれる「大阪沈没」衝撃予測ほか
「週刊ポスト」本日発売! 名古屋にも抜かれる「大阪沈没」衝撃予測ほか
NEWSポストセブン