岩井:だから仕方なく「ぼーっとしてる」と書き直したけれど、明治の農民がそんな言葉遣いをするかいなっていうことばかりで、窮屈でしかない。テレビの世界も同じで、たまに数年前の『5時に夢中!』(TOKYO MX)を見返すとギョッとしますもん(苦笑)。
比嘉:言葉もそうだし、警察の取り締まりも格段に厳しくなっています。「大きな問題がなければ、曖昧なままにしておく」というゆるい対応はほとんど通用しない。
岩井:そういえばいまって暴走族、いなくなりましたよね。
比嘉:複数人でバイクを爆音で走らせるとすぐ捕まってしまうようになりましたから。ただ、暴走族が走れない世の中が治安がよくなったとは決して言えないと思うんです。むしろ、そういうはみ出した子のエネルギーが外に向かわなくなって、かえって危険な10代を生む傾向がある。
岩井:最近若い子が闇バイトに手を出して、強盗になって宝石店を襲ったりする事件が相次いだのも、何か関係があるのかもしれない。
比嘉:それこそ南米じゃないけれど、暴走族という「受け皿」がないと、少しグレたらすぐに凶悪犯罪に走ってしまうことになる。
岩井:まずは1回、ヤンキーにならないと(笑い)。
比嘉:海外マフィアと違って、日本のヤンキーは「卒業」がある。部活と一緒で20才になる前には引退するから、みんな16才になったらいったん地元の暴走族やレディースに入ってみて、その後卒業して普通に働く、みたいなゆるさもアリなんじゃないかなあと思いますね。日本人特有の、人に迷惑をかけてはいけないっていう気持ちが強すぎる気がします。
岩井:確かに。いっそのこと東南アジアくらい、ゆるくだらしなく生活しちゃえばいいのにと思いますよ。私にはベトナム人の愛人がいたんですが、食事に行こうとすると、彼の弟の彼女の友達が来たりするんです。で、食い散らかしてありがとうも言わない(笑い)。お金がある人が払うのが当然だっていう文化だからなんです。
比嘉:もともと戦後までは日本もそういう感じだったじゃないですか。急成長しすぎちゃった面もあるんだろうな。
岩井:「バイクの音」と「だらしなさ」が日本を元気にするキーワードかもしれないですね。
(了)
【プロフィール】
岩井志麻子(いわい・しまこ)/作家。1964年、岡山県生まれ。1999年、短編「ぼっけえ、きょうてえ」で第6回日本ホラー小説大賞を受賞。また、同作に書き下ろし3編を加えた同題の短編集で第13回山本周五郎賞を受賞。近著に『煉獄蝶々』(KADOKAWA)。
比嘉健二(ひが・けんじ)/1956年、東京都足立区出身。1982年にミリオン出版に入社。『SMスピリッツ』などの編集を経て、『ティーンズロード』『GON!』『漫画ナックルズ』など次々に人気雑誌を立ち上げる。現在は編集プロダクション『V1パブリッシング』代表。
『特攻服少女と1825日』(小学館)
居場所を求めてさまよっていたレディース総長たちと「活字のマブダチ」との青春の日々と、彼女たちのいまをつづったノンフィクション。
※女性セブン2023年8月31日号