「(物価目標の)実現に至らず残念」――4月7日の退任会見で黒田氏はそう語ったが、異次元緩和は失敗だったのではないかと質問されると、「そういうふうに全く思っておりません!」と最後まで強気な姿勢を崩さなかった。
退任後は「大学で教えたい」と六本木にキャンパスがある国立政策研究大学院大学の特任教授(政策研究院シニア・フェロー)に就任している。六本木駅で見かけたのは帰宅途中の姿だったようだ。前日銀総裁が電車通勤だと知った官僚OBはこう驚く。
「黒田さんは財務省幹部時代からこれまでずっと黒塗りの公用車で送迎される生活だった。総裁を退いたとはいえ、どこからも車が提供されていないのはびっくりです。ご本人も電車通勤なんて30年ぶりくらいなのではないか」
黒田氏は総裁時代に国会でショッピングの実感を質問されて、「(買い物は)基本的には家内がやっておりますので、物価の動向を直接買うことによって感じているというほどではありません」と答弁したことがある。
いま、電車通勤でようやく庶民の生活実感を得られているのかもしれない。黒田氏が乗り込んだ電車の周囲の乗客は、隣に立っているマスク姿の老紳士が前日銀総裁とは誰も気づいていないようだった。