初めて小説を書いたのは40代終わりで、500枚書いて新人賞に応募し最終候補に残るが、忙しさから続けて書くことはできなかった。昨年、初めて乱歩賞に応募し、2度目の今年、みごと受賞する。
「小学生のときだったかに江戸川乱歩賞っていう賞があるのを知って、小峰元さんの『アルキメデスは手を汚さない』とか、栗本薫さんの『ぼくらの時代』とか、とにかく面白くて、毎年、受賞作を読むようになって。自分もいつかは応募したいと思っていました。
“乱歩賞マニア”と言っていいぐらいですが、30年40年読み続けているうちに、年上だった受賞者がいつのまにか年下になってきて。それが、『ノワールをまとう女』の神護かずみさん、『わたしが消える』の佐野広実さんと、58、59歳での受賞が続いたんです。臆せず応募するのもすごいし、年齢に関係なく選んでくれる賞なんだなと思って、また書き始めました。去年は二次止まりでしたが、もう少しパワーアップして、お話も面白くして、とがんばって書いたら運よく受賞できました」
脚本家で、『破線のマリス』で乱歩賞を受賞した野沢尚さんも、「名探偵コナン」の劇場版(「ベイカー街の亡霊」)を手がけている。野沢さんの受賞の反響は業界でも大きく、映画の予告編には「江戸川乱歩賞作家野沢尚」とクレジットが入った。
「小説に関しては新人にもほどがあるし、経験値も不足しているので、これからちゃんと勉強していかなきゃいけない。だから小説に全振りしたい気持ちもありますけど、『コナン』のスタッフが受賞後も、この先も書いてほしいと言ってくれていますし、自分でも書きたいと思っています。(『コナン』の作者)青山剛昌先生は鳥取出身で、今回の受賞を喜んでくださっていると聞いてうれしかったですね」
この先、自作が映像化されたら、自分で脚本を書きますか?
「たぶん、同じ事務所の、自分より優秀な脚本家にお願いすると思います(笑い)」
【プロフィール】
三上幸四郎(みかみ・こうしろう)さん/1967年鳥取県生まれ。慶應義塾大学を卒業後、数年間のサラリーマン生活を経て脚本家に。『名探偵コナン』『電脳コイル』『特命係長 只野仁』『特捜9』など数多くの人気ドラマやアニメの脚本を担当。2023年、本作(受賞時は「蒼天の鳥たち」)で第69回江戸川乱歩賞を受賞。
取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2023年9月21日号