ライフ

【書評】『トラとミケ5』ニッチェ江上敬子を魅了する“メルヘンな絵とリアルしかない内容のギャップ”

江上敬子(ニッチェ)

ニッチェ・江上敬子も魅了された漫画『トラとミケ』

【書評】『トラとミケ5 うれしい日々』/ねこまき(ミューズワーク)/小学館/1485円

【評者】江上敬子(ニッチェ)

 めちゃくちゃ好きなタイプの漫画でした。私、グルメ系、ほっこり系、動物漫画が大好きなんですが、そのすべてがこの作品には詰まっているし、絵も素敵。オールカラーで背景のあじさいの色まで塗り分けられているんですよ。水彩画のふんわりした色合いで、すべてのページがポストカードになりそうな美しい絵。見ていてものすっごく癒されました。全部最高です!

 ストーリーも、登場する猫たちがすごく人間臭い人生を歩んでいて、胸に刺さるシーンが多かったです。

 例えばネイリストをしている独身女性のルミちゃんは、お客さんたちから毎日、愚痴やのろけなどいろんな話を聞かされ、ある意味ストレスのはけ口にされている。でも自分は満たされているわけではないから、仕事帰りにトラとミケのおばあちゃん姉妹が営む居酒屋に寄って、カウンターでほかの常連客に愚痴をこぼすわけです。

 すごくあるな~、わかるな~って思いました。私も仕事で失敗したり自分ひとりで抱え込んでいる悩みがあるとき、夫に子供を預けて、8年来通っている居酒屋に行って常連さんとお話しするんです。夫より、ああいう場所で酒を介して仲良くなった人たちに話す方がホッとするんですよね。

 このように、物語自体は胸が苦しくなるほどリアリティーがあるし、意外とセンシティブで、同じ境遇の人が読んでいたら、ズシンと胸に響くシーンもあるでしょう。だけど、かわいい猫たちがしゃべっているから決して重い気分にならず、気楽に読める。パステルカラーで彩られたメルヘンタッチな絵なのに、描かれている内容は全然メルヘンではなくリアルしかない、というギャップも新鮮で、面白かったですね。

2組の恋にかつての自分と将来の親を重ねた

 心理描写も細かくて、物語が心にスーッと入ってきました。例えば、ルミちゃんが交際したての金ちゃんとジョギングしているシーン。

《まだ1キロも走ってないよ! せめてあと2キロくらいは》

 と諭す金ちゃんに、

《ヤダッ》

 とはっきり自分の意志を伝えるルミちゃん。そこで2人のいい関係性が見えてきます。

関連キーワード

関連記事

トピックス

6月6日から公開されている映画『国宝』(インスタグラムより)
【吉沢亮の演技が絶賛】歌舞伎映画『国宝』はなぜ東宝の配給なのか 松竹は「回答する立場にはございません」としつつ、「盛況となりますよう期待しております」と異例の回答
NEWSポストセブン
さいたま市大宮区のマンション内で人骨が見つかった
《さいたま市頭蓋骨殺人》「マンションに警官や鑑識が出入りして…」頭蓋骨7年間保管の齋藤純容疑者の自宅で起きた“ある異変”「遺体を捨てたゴミ捨て場はすごく目立つ場所」
NEWSポストセブン
大谷翔平の投手復帰が待ち望まれている状況だが…
大谷翔平「二刀流復活でもドジャースV逸」の悲劇を防ぐカギは“7月末トレード” 最悪のシナリオは「中途半端な形で二刀流本格復活」
週刊ポスト
フランスが誇る国民的俳優だったジェラール・ドパルデュー被告(EPA=時事)
「おい、俺の大きな日傘に触ってみろ」仏・国民的俳優ジェラール・ドパルデュー被告の“卑猥な言葉、痴漢、強姦…”を女性20人以上が告発《裁判で禁錮1年6か月の判決》
NEWSポストセブン
ホームランを放った後に、“デコルテポーズ”をキメる大谷(写真/AFLO)
《ベンチでおもむろにパシャパシャ》大谷翔平が試合中に使う美容液は1本1万7000円 パフォーマンス向上のために始めた肌ケア…今ではきめ細かい美肌が代名詞に
女性セブン
ブラジルへの公式訪問を終えた佳子さま(時事通信フォト)
《ブラジルでは“暗黙の了解”が通じず…》佳子さまの“ブルーの個性派バッグ3690レアル”をご使用、現地ブランドがSNSで嬉々として連続発信
NEWSポストセブン
告発文に掲載されていたBさんの写真。はだけた胸元には社員証がはっきりと写っていた
「深夜に観光名所で露出…」地方メディアを揺るがす「幹部のわいせつ告発文」騒動、当事者はすでに退職 直撃に明かした“事情”
NEWSポストセブン
異物混入が発覚した来来亭(HP/Xより)
「生肉からの混入はあり得ないとの回答を得た」“ウジ虫混入ラーメン”騒動、来来亭が調査結果を公表…虫の特定には至らず
NEWSポストセブン
左:激太り後の水原被告、右:2月6日、懲役刑を言い渡された時の水原被告(左:AFLO、右:時事通信)
《3度目の正直「ついに収監」》水原一平被告と最愛の妻はすでに別居状態か〈私の夢は彼と小さな結婚式を挙げること〉 ペットとの面会に米連邦刑務局は「ノー!ノー!ノー!」
NEWSポストセブン
“超ミニ丈”のテニスウェア姿を披露した園田選手(本人インスタグラムより)
《けしからん恵体で注目》プロテニス選手・園田彩乃「ほしい物リスト」に並ぶ生々しい高単価商品の数々…初のファンミ価格は強気のお値段
NEWSポストセブン
浅草・浅草寺で撮影された台湾人観光客の写真が物議を醸している(Xより)
「私に群がる日本のファンたち…」浅草・台湾人観光客の“#羞恥任務”が物議、ITジャーナリスト解説「炎上も計算の内かもしれません」
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
《スヤスヤ寝顔動画で話題の佳子さま》「メイクは引き算くらいがちょうどよいのでは…」ブラジル訪問の“まるでファッションショー”な日替わり衣装、専門家がワンポイントアドバイス【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン