全力でぶつかる以外の選択肢がない
過去には千秋楽の取組のみ14日目の夕方に発表されていたが、平幕優勝が続出して番付が崩壊するようになり、2019年からは14日目の全取組が終わってから千秋楽の割りが組まれるようになった。そのため、「これより三役」(千秋楽の結びの3番の取組)に平幕力士が登場するのも当たり前のようになった。最後の最後まで優勝争いに残る力士の直接対決が組めるようになったわけだ。
「2011年に八百長問題が発覚して以降、ガチンコ相撲が全盛となった。それが番付崩壊の最大の要因といえるが、そうしたなかでも角界には様々なしがらみがある。モンゴル出身力士は同郷の先輩後輩関係があるし、大学や高校の先輩後輩の関係もある。土俵外の人間関係が微妙に絡んで力が出しきれないケースも懸念されるが、そうしたことも念頭に置いて割りを組む。現体制の審判部はそのあたりをよく考えていて、角界関係者に評価されている」(相撲ジャーナリスト)
今場所の終盤も絶妙の割りが組まれたのだという。
「平幕の熱海富士を追いかける大関・貴景勝は1つも星を落とせない土俵が続いたが、12日目の対戦相手は5敗の状況だった埼玉栄の後輩・琴ノ若に。新関脇として2ケタを狙う琴ノ若も1つも負けられない状況だった。14日目は6勝7敗と後がない新大関の豊昇龍と対戦。千秋楽の相手は優勝の可能性が残るうえに、大関昇進の足掛かりとして関脇で1つでも勝ちたい埼玉栄の先輩の大栄翔と組まれた。この2人はプライベートでも仲が良いことで知られている。
新大関で苦戦していた豊昇龍は13日目に6勝6敗で、同じモンゴル出身でカド番ながら7勝5敗と勝ち越しがかかる大関・霧島との対戦となった。霧島が勝ち越しを決める前に、どちらも負けられない状況で割りが組まれた。霧島が勝利してカド番を脱出したが、豊昇龍は6勝7敗と土俵際まで追い込まれた。豊昇龍は14日目に貴景勝に逆転勝ちして7勝7敗となり、千秋楽には同じモンゴル出身だが4敗で優勝の可能性が残る北青鵬と決まった」(同前)
どの取組もガチンコ中のガチンコとなるようなタイミングで組まれており、よく練られた編成なのだという。もちろん千秋楽にはこれまで同様、正代と宝富士、佐田の海と湘南の海といった7勝7敗の対戦も組まれた。前出・若手親方が言う。
「単独トップで千秋楽を迎えた熱海富士には、すでに8勝と勝ち越しているものの9勝すれば三役復帰もある朝乃山(西前頭2)を当てている。伊勢ヶ濱部屋所属の熱海富士は、負けて4敗になれば巴戦にもつれるという状況。もし審判部が前体制のままだったら、こういう盛り上がることが必至の割りになったかはわかりませんね」
結果として、最後の最後まで賜杯の行方がわからない場所が続いているのはたしかだ。