利他的な思いが強い
イ・ボミのトレードマークは「笑顔」だが、プロゴルファーとしてそれを維持することは、簡単ではないと森口氏は話す。
「親や兄弟などに何かあった時、どう対応するかは選手によって様々です。あの時の彼女は笑顔もなく、一点を見つめていました。いつも笑顔で嫌な顔を一度もしなかった彼女のそうした姿を見て、母国を離れて戦う気持ち、両親を想う気持ちがとても濃かったのかなと思いましたね。
もちろん、最近はゴルフがうまくいかないことで、つらそうな顔をすることは少しありましたが、それはゴルフが思うようにできないという範囲の表情で、誰かに不快感を与えるようなものではなかった。自分の幸せを考えるなかにあっても、いつも自分がいることでみんなが笑顔になってほしいと考える利他的な思いが強いプロですよね。そういう覚悟めいた生き方をしていたのかなと思わせる、魅力的な選手でした」
笑顔を振りまく一方、ゴルフには真剣な表情で向き合った。丁寧なゴルフを貫くスタイルで、森口氏は彼女が投げやりになったシーンを見たことがないという。
「1打1打を真剣に打っている。オン、オフを短い間に切り替えて集中力を高められる選手でした。勝負の世界にいる選手は冷たく感じられたり、他を寄せ付けないムードがあったりしますが、そういう意味では稀有な選手でしたね。
ボミさんは来日した当初から、すごく環境に溶け込んでいけるタイプでした。あとから聞くと、ものすごく日本語を勉強したそうですね。自分のスタイルにプライドを持つプロは多いけど、彼女はプロキャディの清水重憲さんのアドバイスを素直に受け入れて引き出しを増やしていった。乾いたスポンジのようにどんどん吸収できるタイプ。完成されたスタイルで試合に出るというよりも、試合の中で多くを学び、ラウンドを重ねるなかで成長していった」
アスリートには様々な引き際があるが、「彼女からたくさん吸収したかった若い選手は残念に思っているでしょうね」(森口氏)と言われるほどに、惜しまれるなかでの引退となった。