東京都がコロナウイルス対策を呼びかけるアドトラック。最近は、都内の繁華街を走るアドトラックの大半がホストクラブ宣伝で、派手な電飾と大音量を理由に東京都は規制を強化する見込み(時事通信フォト)
過大な請求をしている証拠を残したくなかったのか、店は「売り掛け」を放棄した。そして横田さんは、ホストが刺されたり、ホスト業界が政界や司法当局から改善が必要だと指摘される現状について、深刻な事態だと言う。
「ホストにハマる女の方がまともではないとよく言われます。それは確かに当たっている部分もあるし、私がホストにハマったきっかけは、仕事がうまくいかずストレス発散のためだったので、結果は自己責任だとも思います。でも、悪徳なホストがいなければ、一生消えないような傷を負わされることもなかった。今のホストが悪、という空気は、ホストによって苦しめられてきた女性にとって歓迎すべきものだと思います」(横田さん)
様々な事件や取締りが厳しくなるという報道を耳にして、ホストの言いなりになる必要が無いのだと考える女性が増えるのではないかと横田さんは言う。売り掛けを払わず逃げる、悪質な店を当局に通報する人が続出するかもしれない。果ては、ホストに身体的な危害を加えて「仕返し」をしたい、こう考える女性客は少なくないはずだというのだ。実際に、前出の光河さんも、全く同様の危機感を感じている。
「最近では、女性客が個人的に暴力団関係者などに相談し、ホストが脅され金を奪われるようなことも起きています。でも、お互いに少なからず違法、脱法行為に手を染めているので、警察沙汰にはならない。だからこそ、今まで好き放題にやってきたホストならなおさら、今度は俺が刺される、と不安でいっぱいです。もちろん、身から出た錆と言われればそれまでですが」(光河さん)
多くの市民にとっては、どこか遠い世界の話と受け取られるかもしれないが、不健全な商習慣と、不健全な消費をする人たちどうしの化かし合い、だまし合いだと冷笑し、傷害事件の現場を囲んだ人たちのように野次馬だけしていればよいのだろうか。実像より煌びやかな成功をアピールすることで金儲けをする手法は、ホストクラブという場所に無縁だったはずの人たちや、社会での経験が浅い未成年にもSNSを通して届いてしまっている。その結果、社会に憎悪や不安を広げるようでは、悪質な営業形態を見過ごすべきではないだろう。