ドリアン助川さん

何かの主義に立とうとすると生きづらいいまの時代こそ、ドリアン流「森として生きる」境地が必要なのかもしれない(撮影/chihiro.)

「え〜、そう思われるのはちょっとやだなあ(笑い)。こういう個の命があったかもしれない、という一物語のつもりで書いたから、受け取り側はもっと自由に読んでもらいたい。この物語がイソップ童話集と違うのは、道徳観念やこうあるべきというゴールを設けたわけではないということなので。

 先ほども“糸の切れたタコ”と言いましたけど、そもそもぼくには主義主張がない人間なんですよ。人生相談にしてもぼくがやりたいと一度も望んだわけじゃなく、たまたまお声がかかって『はい、わかりました』って始まったもの。もしあの時お笑い系の番組に誘われていたら、いまとは全く人生を送っていたと思います。

 でもまあそんなこんなで人生相談の回答者みたいな役割を30年くらいやらされ続けたわけですけれど、そもそも人間界は主義主張のぶつかり合い。そこでぼくが求められた立場は自分の主義主張をぶつけるのではなく、“森”のような存在になって見守ることでした。

“森”というのは共生が基本にあって、そこで食う・食われるがあったとしても全員が命を繋いでいくじゃないですか。いろいろな思想、いろいろな生き物があって、その循環のなかで世界をみていく。だから“森”として生きると、排他的な方向にはならないんです」

 何かの主義に立とうとすると生きづらいいまの時代こそ、ドリアン流「森として生きる」境地が必要なのかもしれない。

 最後にドリアンさんはこんな熱い思いを打ち明けてくれた。

「今後の目標は、2600種類の生き物の物語を描くこと。アジア初のノーベル文学賞を受賞したインドの詩人・タゴールが2600の詩歌を遺しているので、ぼくもそれに挑戦しようと思っています。

 年間で70の生き物を描くとして、あと36〜37年。そんな命の果て方ができたらいいですね」

【プロフィール】
ドリアン助川(どりあん・すけがわ)/1962年東京生まれ、早稲田大学第一文学部哲学科卒。作家、歌手、明治学院大学国際学部教授。1990年にバンド「叫ぶ詩人の会」を結成、1995年から始まったラジオ番組での人生相談が若者を中心に爆発的人気を博す。バンド解散後、執筆活動を開始。2013年に出版した、元ハンセン病患者を描いた小説『あん』(ポプラ社)は映画化に加え、23言語に翻訳されるなど世界的ベストセラーに。『線量計と奥の細道』(集英社)、『新宿の猫』(ポプラ社)、『水辺のブッダ』(小学館)『寂しさから290円儲ける方法』(SHC)など著書多数。

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