語学はなだらかに上達していくものだが、こんなふうに「あの時、日本語力がぐっと上がった」と自分で認識できる「地点」があるのはとても重要なことだと思う。達成感、充実感を得た経験が記憶に強く刻まれ、言葉に対する不安が払拭されるからだ。おじいさん、おばあさんも、頑張っているタオさんの力になることができて嬉しかっただろう。
今は博士課程に在籍しているタオさん。取り組んでいる研究についても聞いてみよう。
「排水の処理技術の開発、水中の汚染物質の除去に関する実験を毎日やっています。土に含まれている農薬を早く分解させる方法も、研究の中心のひとつです。ベトナムで開かれる環境に関するフォーラムで、これまでの研究を発表する予定もあります。
ベトナムの環境改善や、農業に貢献したいという気持ちがあるんです。具体的にはコーヒー。さっき父がコーヒーを作っていると話しましたけど、ベトナムは世界第2位のコーヒーの産地なんです。でもあまり知られていない。もっと有名になってほしいですね。どうやったらベトナムのコーヒーのおいしさを知ってもらえるか、価値を上げられるか考えています。それに関連するビジネスを、いつか立ち上げたいと思っています」
(第4回に続く)
【プロフィール】
ゴー・ティ・トゥー・タオ/1992年、ベトナム生まれ。2017年6月、美幌農業協同組合の技能実習一期生として来日。現在は北見工業大学大学院博士課程に在籍し、研究テーマは「農薬の無害化」。
◆取材・文 北村浩子(きたむら・ひろこ)/日本語教師、ライター。FMヨコハマにて20年以上ニュースを担当し、本紹介番組「books A to Z」では2千冊近くの作品を取り上げた。雑誌に書評や著者インタビューを多数寄稿。