国際情報

【手嶋龍一氏×佐藤優氏対談・2024年の中東情勢】懸念される「核の連鎖」、ウクライナ戦争へも大きな影を延ばす

泥沼化する中東で懸念されるのが「核の連鎖」と佐藤優氏は指摘する

泥沼化する中東で懸念されるのが「核の連鎖」と佐藤優氏は指摘する

 今年は世界的な“選挙イヤー”となるが、最も注目されるのが11月の米大統領選だ。ロシア、中東情勢が混迷を極めるなか、誰が次期米大統領になり、どう動くのか。そして日本はどのような舵取りを迫られるのか。外交ジャーナリストの手嶋龍一氏と、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が読み解く。【全3回の第2回。第1回から読む

手嶋:バイデンは中東・ガザ地区の紛争でも的確な采配を振るえず、事態を一層混迷させてしまった。

佐藤:関係者が頭を抱えたのは、バイデンが演説でハマスとプーチンを同一視したことです。本来、「ウクライナ戦争は国家間戦争だが、ガザ地区の紛争はイスラエルとテロ組織の戦い」とのロジックを用いてテロとの戦いを名目に、プーチンや習近平に協力を呼びかけてハマスを孤立させるべきだった。しかし、あの演説でパレスチナとイスラエルの国家間戦争というフレームになってしまった。

手嶋:ニッポンにとって米大統領は我々が考えるより重要な存在です。9.11テロでは、ブッシュ大統領が「米国を襲ったテロリストと彼らを匿う国家を分け隔てしない」と断じて、米国は無制限、無期限の対テロ戦争に突入していきました。

佐藤:泥沼化する中東で懸念されるのが「核の連鎖」です。イスラエルの閣僚が「ガザ地区への核投下は選択肢のひとつ」と発言して物議を醸しましたが、ガザで核を使えば風向きの関係で死の灰がイスラエル本土を襲うため可能性はゼロ。発言はイランの影響下にあるヒズボラ(レバノンのイスラム教シーア派民兵組織)への牽制でしょう。ハマスの10倍以上の戦力を持つヒズボラになら、イスラエルは戦術核に分類される小型核を投下するかもしれません。

手嶋:イスラエルは公には認めていませんが、明らかな核保有国ですから。

佐藤:心配なのはサウジアラビアの動向です。貧しいパキスタンが核開発を進められるのはサウジが資金源だからで、万が一、イスラエルがヒズボラに核を使用したら、パキスタンにある核がサウジに移動する恐れがある。サウジが核保有を宣言すれば、オマーンやアラブ首長国連邦といったアラブ諸国がイスラエルに対抗すべく、サウジから核を入手するでしょう。

手嶋:表向きは中東に核は存在しないことになっていますが、「イスラムの核」は極めて現実的な脅威になっています。

佐藤:ひとたび中東で核の連鎖が始まったら、ウクライナ以上に核戦争のリスクが高まります。(インド、パキスタン、中国が国境を接する)カシミールでもパキスタン製の核が使われる恐れがある。山岳地帯で死者が少ないと予想され、核のハードルが低くなるからです。

手嶋:ウクライナ戦争にも核の影は延びるでしょう。現にプーチンは「ロシアの核心的な利益を侵された時は、核の使用も辞さない」と明言しています。侮るべからずです。

第3回に続く第1回から読む

【プロフィール】
手嶋龍一(てしま・りゅういち)/1949年、北海道生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局長などを歴任。2005年に退職後、作家・ジャーナリストとして活動。『ウルトラ・ダラー』など著書多数。

佐藤優(さとう・まさる)/1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。在露日本国大使館などを経て外務省国際情報局に勤務。現在は作家として活動。主著に『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて』などがある。

※週刊ポスト2024年1月12・19日号

関連記事

トピックス

永野芽郁の近影が目撃された(2025年10月)
《プラダのデニムパンツでお揃いコーデ》「男性のほうがウマが合う」永野芽郁が和風パスタ店でじゃれあった“イケメン元マネージャー”と深い信頼関係を築いたワケ
NEWSポストセブン
多くの外国人観光客などが渋谷のハロウィンを楽しんだ
《渋谷ハロウィン2025》「大麻の匂いがして……」土砂降り&厳戒態勢で“地下”や“クラブ”がホットスポット化、大通りは“ボヤ騒ぎ”で一時騒然
NEWSポストセブン
声優高槻かなこ。舞台や歌唱、配信など多岐にわたる活躍を見せる
【独占告白】声優・高槻かなこが語る「インド人との国際結婚」の真相 SNS上での「デマ情報拡散」や見知らぬ“足跡”に恐怖
NEWSポストセブン
人気キャラが出現するなど盛り上がりを見せたが、消防車が出動の場面も
渋谷のクラブで「いつでも女の子に(クスリ)混ぜますよ」と…警察の本気警備に“センター街離れ”で路上からクラブへ《渋谷ハロウィン2025ルポ》
NEWSポストセブン
クマによる被害
「走って逃げたら追い越され、正面から顔を…」「頭の肉が裂け頭蓋骨が見えた」北秋田市でクマに襲われた男性(68)が明かした被害の一部始終《考え方を変えないと被害は増える》
NEWSポストセブン
園遊会に出席された愛子さまと佳子さま(時事通信フォト/JMPA)
「ルール違反では?」と危惧する声も…愛子さまと佳子さまの“赤色セットアップ”が物議、皇室ジャーナリストが語る“お召し物の色ルール”実情
NEWSポストセブン
(時事通信フォト)
「日本ではあまりパートナーは目立たない方がいい」高市早苗総理の夫婦の在り方、夫・山本拓氏は“ステルス旦那”発言 「帰ってきたら掃除をして入浴介助」総理が担う介護の壮絶な状況 
女性セブン
9月に開催した“全英バスツアー”の舞台裏を公開(インスタグラムより)
「車内で謎の上下運動」「大きく舌を出してストローを」“タダで行為できます”金髪美女インフルエンサーが公開した映像に意味深シーン
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる(クマの画像はサンプルです/2023年秋田県でクマに襲われ負傷した男性)
《コォーってすごい声を出して頭をかじってくる》住宅地に出没するツキノワグマの恐怖「顔面を集中的に狙う」「1日6人を無差別に襲撃」熊の“おとなしくて怖がり”説はすでに崩壊
NEWSポストセブン
「原点回帰」しつつある中川安奈・フリーアナ(本人のInstagramより)
《腰を突き出すトレーニング動画も…》中川安奈アナ、原点回帰の“けしからんインスタ投稿”で復活気配、NHK退社後の活躍のカギを握る“ラテン系のオープンなノリ”
NEWSポストセブン
真美子さんが完走した「母としてのシーズン」
《真美子さんの献身》「愛車で大谷翔平を送迎」奥様会でもお酒を断り…愛娘の子育てと夫のサポートを完遂した「母としての配慮」
NEWSポストセブン
11歳年上の交際相手に殺害されたとされるチャンタール・バダルさん(21)千葉県の工場でアルバイトをしていた
「肌が綺麗で、年齢より若く見える子」ホテルで交際相手の11歳年下ネパール留学生を殺害した浅香真美容疑者(32)は実家住みで夜勤アルバイト「元公務員の父と温厚な母と立派な家」
NEWSポストセブン