生きたエゾシカを襲うのはヒグマにとってもリスク
仮に、ヒグマがエゾシカを食べることが常態化していると仮定すると、もう一歩踏み込んだ考察が必要だと考える。
私が気がかりなのは、ヒグマがどのようにエゾシカを食べているかだ。死んだエゾシカを食べているのか、或いは生きたエゾシカを襲って食べているのか。同じエゾシカの肉を食べるにしても、その差は大きい。非常にレアケースではあるが、ヒグマがエゾシカに襲いかかる様子が、テレビカメラで撮影された事例もある。
ハンターが放置した残滓や、怪我や病気で倒れたシカを食べるのは、食べているのは肉であっても行動的には草食に近いと言えよう。広範囲に山を歩き回り、優れた嗅覚で食べもののありかを探り当てる。狩猟採集活動で言えば、採集だ。
しかし生きたエゾシカを捕獲するのは純粋な狩猟。そこには戦略が必要だ。
シカの行動を観察し、どうやったら獲れるかを考える。いつも通る道筋で待ち伏せをするのか、寝込みを襲うのか。徐々にシカの裏をかくスキルを身につける。思考能力が向上し、性格は攻撃性を増すかもしれない。
無論、死んでいるシカを食べる方が、狩りをして食べるよりは楽だ。特に大きな雄ジカの角は侮れない。思い切り突き立てられたら、ヒグマであっても致命傷を負う可能性もある。だから、ヒグマが無闇にエゾシカを襲うとは思えない。
しかし果実がなく、シカの死体も見当たらない場合、自らの生命を維持するためにリスクを負うヒグマが出てこないとも限らない。