国内

全壊した輪島塗メーカー、重要無形文化財の復興へ向けた挑戦 クラファンには多くの支援者「業界全体を立て直したい」

1階が押し潰された工場の前で、見つけ出した輪島塗を手に復活を誓う田谷漆器店10代目の田谷昂大さん(左)、いとこの田谷竜一さん(1月8日、撮影/太田真三)

1階が押し潰された工場の前で、見つけ出した輪島塗を手に復活を誓う田谷漆器店10代目の田谷昂大さん(左)、いとこの田谷竜一さん(1月8日、撮影/太田真三)

 最大震度7を観測した能登半島地震から3週間。壊滅的な被害を受けた石川県輪島市の伝統工芸「輪島塗」の復興に向け、地元の老舗輪島塗メーカーが立ち上がり、全国に支援の輪が広がっている。

 江戸時代から約200年続く老舗輪島塗メーカー「田谷漆器店」(輪島市杉平町)は工場、店舗(展示場・事務所棟)が全壊し、輪島朝市付近で3分の2まで完成していた建設中の新ギャラリーは足場の骨組みだけを残して全焼した。道具も漆も作品も大半を失った。だが、10代目の田谷昂大さん(32)は「今こそ立ち上がり、僕らも輪島塗も必ず復活する!」と再起と地元復興を誓う。

 田谷さんは工場近くの実家で被災。実家も全壊した。家族、親戚、従業員の無事を確認したが、母方の祖母だけ倒壊した家の下敷きになっていることが判明。14時間後に自衛隊員によって救出された。スマートフォンでメールなどを確認すると、知人友人や取引先、購入客、全国の人々から励ましの言葉が1000通以上送られてきていた。オンライン注文も相次ぎ、「納品はいつでもいいから」といったメッセージも寄せられた。

「輪島塗はこんなに愛されていたのだと実感しました。壊滅的な状況に一時は絶望しましたが、輪島塗を復活させないといけないと決意しました」(田谷さん)

 自ら被災しながらも、1月8日には、昼は倒壊した店舗前、夕方は大好きな朝市の近くで「能登牛すじカレー」の炊き出しも行なった。田谷さんが力強く語る。

「バカと思われるかもしれませんが、あの焼け野原の朝市の同じ場所にもう一度、新ギャラリーをつくり直したい。復興を牽引していくのも大事な仕事と思っています。輪島塗の産地であり、1社だけでなく全員が強い意志で復活した時、産業としても強くなり、いい漆器を国内外に届けられる。みんなで復活しようぜ! という思いは強いです」

 業界全体の復興のために1月13日、クラウドファンディングサイト・READYFORの中で「令和6年能登半島地震 壊滅的な輪島塗業界を、立て直したい」プロジェクトを開始するや、全国から支援金と応援コメントが相次いだ。第1目標の1000万円はわずか3日間で達成し、計9日間で2000万円を突破。1月23日現在、支援者は計1300人以上に達し、支援総額は2500万円を超えるなどハイペースで支援者・支援金が増えている。

 今回のクラウドファンディングは、田谷漆器店の販売部門会社で田谷さんが代表を務める「The Three Arrows」が実行主体だが、「田谷漆器店だけではなく、輪島塗に携わる、できるだけ多くの職人や漆器屋さんを助けられるものになればと考えている」という。箸、ぐい呑み、どんぶり、重箱などのリターン(返礼品)の輪島塗も、田谷漆器店だけですべて受けるのではなく、復活したいと考えている他の漆器店とともにつくる方針だ。

関連記事

トピックス

今季から選手活動を休止することを発表したカーリング女子の本橋麻里(Xより)
《日本が変わってきてますね》ロコ・ソラーレ本橋麻里氏がSNSで参院選投票を促す理由 講演する機会が増えて…支持政党を「推し」と呼ぶ若者にも見解
NEWSポストセブン
白石隆浩死刑囚
《女性を家に連れ込むのが得意》座間9人殺害・白石死刑囚が明かしていた「金を奪って強引な性行為をしてから殺害」のスリル…あまりにも身勝手な主張【死刑執行】
NEWSポストセブン
失言後に記者会見を開いた自民党の鶴保庸介氏(時事通信フォト)
「運のいいことに…」「卒業証書チラ見せ」…失言や騒動で謝罪した政治家たちの実例に学ぶ“やっちゃいけない謝り方”
NEWSポストセブン
球種構成に明らかな変化が(時事通信フォト)
大谷翔平の前半戦の投球「直球が6割超」で見えた“最強の進化”、しかしメジャーでは“フォーシームが決め球”の選手はおらず、組み立てを試行錯誤している段階か
週刊ポスト
参議院選挙に向けてある動きが起こっている(時事通信フォト)
《“参政党ブーム”で割れる歌舞伎町》「俺は彼らに賭けますよ」(ホスト)vs.「トー横の希望と参政党は真逆の存在」(トー横キッズ)取材で見えた若者のリアルな政治意識とは
NEWSポストセブン
ベビーシッターに加えてチャイルドマインダーの資格も取得(横澤夏子公式インスタグラムより)
芸人・横澤夏子の「婚活」で学んだ“ママの人間関係構築術”「スーパー&パークを話のタネに」「LINE IDは減るもんじゃない」
NEWSポストセブン
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン