ハツラツとした印象は今も変わらない(撮影/藤岡雅樹)

ハツラツとした印象は今も変わらない(撮影/藤岡雅樹)

「執着があるとしたらフジテレビに対して」

 昨今、キー局のアナウンサーのフリー転身は珍しいものではなくなった。テレビの画面に映る“表舞台”からの卒業と同時に、そうした選択は頭をよぎらなかったのか。

「フリーになろうなんて、1ミクロンも考えたことはないです。フリーアナウンサーの方はみなさん才能に溢れていて、とても私には務まりません。なんて言うと、私がアナウンサーをしていたこと自体申し訳なくなりますが、私はフジテレビだからこそアナウンサーを続けられたのだと感じています。私に執着があるとしたら、アナウンサーという仕事にではなく、フジテレビという会社に対してかな。フジテレビに育ててもらったことにとても感謝していますし、恩返しができたらと、今も働かせていただいています」

 入社1年目ですぐに夜のニュース番組に抜擢された。その後は『なるほど!ザ・ワールド』リポーターを担当して28歳でパリ支局に赴任。帰国後は『FNNスピーク』などのニュース番組のキャスターを務め、『笑っていいとも!』などの人気バラエティ番組の一方で、ドキュメンタリーなどのナレーションも数多く担当した。50歳を前にニューヨーク勤務となり、帰国後に異動した報道局で定年を迎えた。

「3年間のNY駐在を終えて帰国すると同時に報道局に移り、フジテレビのニュース専門のウェブチャンネル『ホウドウキョク』(注:現在は終了)のスタッフとなりました。小人数のチームでしたから、出演だけでなく音声調整卓に座ったり、テロップを打ったり、ゲストへの出演交渉やギャラ伝票を書いたりもしていました」

『ホウドウキョク』の仕事は、アナウンサー時代に一緒にニュース番組を作ったスタッフとの共同作業でもあった。

「ウェブの生配信番組では視聴者の反応がすぐにSNSなどで返ってきます。だから、カメラ前で話すのは地上波と変わりませんが、その感覚がとても新鮮でした。Xもこの異動を機に始めて。番組で『これが分からない』と言うと、すぐに視聴者の方が『こうですよ』とコメントをくださる、その「近さ」が刺激的でワクワクしましたね。もちろん、辛口コメントもダイレクトに届くし、自由だからこその責任も強く感じていました。異動後も生番組に関われたことは、アナウンサーとして培ってきたものが活かせたので、とても幸運で幸せでした。

『ホウドウキョク』では、私が地上波でニュースを担当していた時に、中継リポートをしていた特派員や記者、解説委員の方々とコンビを組んでいました。報道記者たちの、大変な取材を通して得てきた蓄積、つまり情報量や知識、人脈はやはりとてつもなく凄くて、新人報道局員として自分のうすっぺらさに恥ずかしくなることも多々でした」

 長きにわたって、テレビ局の表も裏も見てきた阿部さん。続く第2回では、若かりし頃「黄金時代」と呼ばれたフジテレビで体験した出来事について語ってもらった──。

(第2回に続く)

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