『Dr.スランプ』
2022年には妻の不安が現実になった。体調を崩し入院を余儀なくされたのだ。そして今年1月末、追い打ちをかける出来事が起きた。
「あきさん(鳥山さん)が自宅で転倒したとかで、救急車で運ばれたんです。それまでは胸ポケットにペンを数本差して近所を散歩するのが日課だったのに、その日を境にまったく見かけなくなってしまった」(近隣住民のひとり)
鳥山さんが亡くなった急性硬膜下血腫は、外傷などにより脳の表面の血管から出血した血液が脳を覆う硬膜との間にたまり、脳を圧迫することで発症。死亡率は6割を超える。発症の経緯は明らかになっていないが、1月の出来事が影響していた可能性はある。突然訪れた天才漫画家の最期。思い返せば、3世代が同居した自宅で、鳥山さんが一貫して描き続けたのは「家族の物語」だった。
「『ドラゴンボール』では幼かった主人公・孫悟空が成長し、幼なじみのチチと結婚して長男の悟飯や次男の悟天が生まれ、やがて孫も誕生します。ほかにもかつての敵同士やライバルなどがカップルになり、子供が生まれるなどの展開もありました。
『Dr.スランプ』でも第1話ではアラレちゃんと千兵衛博士の2人暮らしでしたが、物語は家族が増えながら進んでいきました。千兵衛博士とみどりさんが結ばれ、ロボットのアラレちゃんとオボッチャマンが結婚。千兵衛博士が赤ちゃんのロボットを作ってふたりにプレゼントする心温まる場面があります。
キャラクターに家庭を築かせて家族の物語も描くストーリーは、それまでのギャグ漫画や格闘漫画には見られない展開でした」(前出・漫画誌関係者)
なぜ鳥山さんは家族を描き続けたのだろうか。
「体調に不安を抱えながら、まさに命を削って描き続けた鳥山先生を支えた存在こそ、家族でした。両親から愛情を受けて育った場所で、奥さんに助けられ、子供の存在が力になった。鳥山さんは自身の感情をキャラクターに吹き込みながら、家族の力を描いていたんです」(前出・漫画誌関係者)
『ドラゴンボール』の最終回も『Dr.スランプ』同様に、悟空を中心にそれぞれの家族が描かれ「ありがとう!」と別れを告げるシーンで終わった。鳥山さんが一貫して描き続けた「家族の力」。それこそが、世界中で愛された理由だったのだろう。
(了。第1回から読む)
※女性セブン2024年3月28日号
3月20日からディズニープラスで配信予定の鳥山さんが手掛けた『SAND LAND』(画像は公式Xより)
ゲーム『ドラゴンクエスト』(上)のキャラクターデザインも担当。発売前日から徹夜組が出るほどの人気ぶりだった(1990年)時事通信フォト