ライフ

テレビ番組や日常生活で頻繁に目にする「お断り」が気づかせてくれる大切なこと

球団公式Xより

球団公式Xより

 クレームへの備えがそこかしこで違和感を醸し出す今日この頃、コラムニストの石原壮一郎氏が考察した。

 * * *
 20日夜にNHK総合で生中継された米大リーグ開幕戦の「ドジャース対パドレス」。パドレスの先発・ダルビッシュ有と新婚・大谷翔平の初対決とあって、瞬間最高視聴率は29.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)という驚きの数字を叩き出しました。

 中継を見ていた視聴者は、その翌日にまさかあんなニュースが飛び込んでくるとは誰ひとり思わなかったはずです。それはさておき、開幕戦の中継で話題になったのが、NHKが何度も言い訳がましい「お断り」のコメントを入れていたこと。

 大谷が打席に入ると、客席で観戦する大谷夫人の真美子さんや大谷の両親にカメラが向けられました。そのたびにNHKの実況アナは「現地製作の国際映像で放送しています」というセリフをはさみます。しつこいのは承知で念入りに繰り返したのは、もし何も言わなかったら、視聴者から「NHKのカメラは真美子さんばっかり映してケシカラン!」というクレームが寄せられると予想したからに違いありません。

 SNS上では、そんなNHKの用心深さを評価する声が上がりました。たしかに、このタイミングでNHKが新妻を熱心に映したとなったら、何かに文句を付けることを生きがいにしている人たちが、鼻息荒くギャーギャー騒いだでしょう。その文句は、誰のために何の目的で付けようとしているのかは、よくわかりませんけど。

 いつごろからでしょうか、テレビを見ていても日常生活でも、頻繁に「お断り」を目にするようになりました。テレビのバラエティ番組のゲームなどでたくさんの食べ物が出てくると、「このあとスタッフがおいしくいただきました」というテロップが出てきます。健康食品のCMでは、元気になった人が喜びの言葉を述べる場面に「個人の感想です」とか「効果には個人差があります」といったテロップが欠かせません。

 勝手に決め付けますが、バラエティ番組で使った食べ物の大半は「スタッフがおいしくいただく以外の方法」で消滅しています。元気になった人のコメントは最初から「個人の感想」に決まってるし、「効果には個人差が」あるのは言うまでもありません。もしテロップを出さなかったら、「食べ物を粗末にするな!」とか「効き目がなかったじゃないか!」といった抗議が殺到するのでしょうか。

 昔からおなじみなのは「このドラマはフィクションであり~」というテロップ。一説によると「ドラマ上の悪い人たちの団体名が実在の企業名と同じだった」などのトラブルがあったことをきっかけに入るようになったそうです。そもそもドラマはフィクションが前提なので、そのテロップを入れることに大きな意味があるとは思えません。

 話題の人気ドラマ『不適切にもほどがある!』では、その手の「お断り」が醸し出すわざとらしさを逆手にとっています。物語の途中に「この作品には、不適切な台詞が含まれていますが、時代による言語表現や文化・風俗の変遷を描く本ドラマの特性を鑑み、1986年当時の表現をあえて使用して放送します」などのテロップが何度も登場。そうすることで、すぐに「不適切だ!」と言ってくる人をおちょくっているように見えます。

「お断り」を目にするのは、テレビだけではありません。ホームセンターやスーパーのトイレに入ると「このトイレは従業員も使用させていただきます」と書かれたプレートをよく見ます。電車の運転席と客室のあいだのガラス窓に「熱中症予防のため乗務員が室内で水分を補給することがあります」と書かれたシールが貼られているのを見たこともあります。

 おそらくそれらが貼られたのは、「どうして従業員が客用のトイレを使ってるんだ!」と怒る人がいたり、「運転手が運転中に水を飲んでいたぞ!」というクレームが入ったりしたから。どちらも「それがどうした」と一蹴したくなるイチャモンですが、お店にせよ鉄道会社にせよ、愚かな方々の相手をするのも面倒なので予防線を張っているのでしょう。

関連キーワード

関連記事

トピックス

大阪・関西万博内の『景福宮』での重大な疑惑が発覚した(時事通信)
《万博店舗スタッフが告発》人気韓国料理店で“すっぱい匂いのチャプチェ”提供か…料理長が書いた「始末書」が存在、運営会社は「食品衛生上の問題はなかった」「異常な臭いはなかった」と反論
NEWSポストセブン
63歳で初めて人生を振り返った俳優・小沢仁志さん
《63歳で初めて人生を振り返った俳優・小沢仁志》不良役演じた『ビー・バップ』『スクール☆ウォーズ』で激変した人生「自分の限界を超える快感を得ちまった」
NEWSポストセブン
釜本邦茂さん
サッカー界のレジェンド・釜本邦茂さんが「免許返納」密着取材で語っていた「家族に喜んでもらえることの嬉しさ」「周りの助けの大きさ」
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがニューシングル『Letter』をリリース(写真・左/AFLO、写真・右/Xより)
羽生結弦の元妻のバイオリニスト・末延麻裕子さん、“因縁の8月”にニューシングル発売 羽生にとっては“消せない影”となるのか 
女性セブン
中学生記者・川中だいじさん(14)が明かした”特ダネ”の舞台裏とは──
「期末テストそっちのけ」中学生記者・川中だいじさん(14)が抜いた特ダネスクープの“思わぬ端緒”「斎藤知事ボランティアに“選挙慣れ”した女性が…」《突撃著書サイン時間稼ぎ作戦で玉木氏を直撃取材》
NEWSポストセブン
釜本邦茂さん
メキシコ五輪得点王・釜本邦茂さんが語っていた“点取り虫”になる原点 “勝負に勝たなければならない”の信念は「三国志」に学んでいたと語る
NEWSポストセブン
北海道札幌市にある建設会社「花井組」SNSでは社長が従業員に暴力を振るう動画が拡散されている(HPより、現在は削除済み)
《暴行動画に批判殺到の花井組》社長らが書類送検で会社の今後は…元従業員は「解体に向けて準備中」、会長は「解体とは決まっていない。結果が出てくれば、いずれわかる」と回答
NEWSポストセブン
雅子さまのご静養に同行する愛子さま(2025年8月、静岡県下田市。撮影/JMPA) 
愛子さま、雅子さまのご静養にすべて同行する“熱情” そばに寄り添う“幼なじみ”は大手造船会社のご子息、両陛下からも全幅の信頼 
女性セブン
猫愛に溢れるマルタでは、動物保護団体や市民による抗議活動が続いているという(左・時事通信フォト)
《深夜に猫地面にたたきつける動画》マルタで“猫殺し”容疑で逮捕の慶應卒エリート・オカムラサトシ容疑者の凶行と、マルタ国民の怒号「恥を知れ」「国外に追放せよ」
NEWSポストセブン
大神いずみアナ(右)と馬場典子アナが“長嶋茂雄さんの思い出”を語り合う
大神いずみアナ&馬場典子アナが語る“長嶋茂雄さんの思い出”「こちらが答えて欲しそうなことを察して話してくれる」超一流の受け答え
週刊ポスト
夜逃げした「郷土料理 たち川」に、食品偽装があったという(左はinstagramより、右は従業員提供)
「飛騨牛はホルスタイン、天然鮎は養殖モノ…」岐阜・池田温泉、町が委託したレストランで“食品偽装疑惑”「仕入れ先が減り、オーナー自らスーパーで割引の商品を…」【7月末に夜逃げしていた】
NEWSポストセブン
デコラファッションで小学校に登校していたいちかさん、中学生となり衝撃の変貌を遂げていた…!
《デコラ小学生が衝撃の変貌》グリーン&ゴールド髪が“黒髪少女”に大転身「ほぼスッピンのナチュラルメイクで中学に登校する」意外な理由とは
NEWSポストセブン