大阪桐蔭の西谷浩一監督は甲子園歴代最多勝監督となった(時事通信フォト)
全選手平等に打席に立たせたい
大阪桐蔭の強さとは何か。迫力満点の打力だろうか。豪腕を揃えた投手陣だろうか。いやいや全国に眼を光らせたそのスカウティング力こそ高校野球を牽引する根源だろうか。
そのいずれもがそれなりに当てはまるのだろうが、チームカラーは毎年異なる。もっと普遍的な強さの秘訣がある。
それは「退部者の少なさ」ではないか。
昭和の時代の伝統校などには、「60人が入部して、1週間で半分が退部した」というような逸話が残るように、強豪であればあるほど競争は厳しく、練習も厳しく、それについていけない高校生が野球を辞めるケースは珍しくない。また、いまだ先輩と後輩の厳しい上下関係が残る学校もあり、人間関係に悩み、野球を離れる高校生も少なくない。同じ大阪でかつて一時代を築いたPL学園などは、毎年数名は離脱者がいたものだ。
大阪桐蔭は一学年およそ20人という少数精鋭で、全員が寮で共同生活を送る。プロ野球など先の野球人生を見据えた選手が日本一の競争に挑む覚悟を持って全国から集まるからこそ、離脱者が少ないのかもしれない。確認できた限り退部者は、ここ10年でたったのふたりしかいない。西谷は言う。
「そんなにいますか? それぞれの学校にやり方がありますが、うちは人数が少なく、みんなで生活をしているので、僕は大きな家族だと思って選手と接している。全員を試合に出すことは無理かもしれませんが、預かった以上、次のステージにつなげていきたい気持ちは強いです」
高校野球は20人しかベンチに入れない。大阪桐蔭の1年間のスケジュールには、ベンチ入りできない選手を腐らせないための工夫が組み込まれている。
たとえば、秋だ。レギュラーメンバーが中心となるAチームの試合だけでなく、控えメンバーが中心のBチームの試合も数多く組み、野手なら打席数、投手ならイニング数に差が出ないように配慮しながら起用していく。
「全選手平等に、同じぐらいの打席に立たせたいと思っていて、時には2か所に分かれて対外試合をすることもある。B戦はあくまで育成の場なので、相手校の了解を得て、DHをふたりにする特別ルールを設け、10番打者までいる打線で戦ったりもします」