退部者は、ここ10年でたったのふたりしかいない

退部者はここ10年でたったのふたりしかいない(時事通信フォト)

雨雲レーダーで「降っていない球場」を探し……

 控えメンバーを大切にする西谷を物語るエピソードを話してくれたのは、西谷と同じ関西大のOBで、京都国際を率いる小牧憲継だ。

「週末だけでなく平日の夜などに、うちは大阪桐蔭さんとB戦や下級生同士の試合もよくさせてもらうんです。一度、枚方市(大阪府)の球場でB戦の練習試合を予定していたところ、雨で試合が難しかった。すると、西谷先生は雨雲レーダーを確認し、舞洲(大阪市此花区)のほうなら雨が降っていないと言って、急遽、大阪シティ信用金庫スタジアムをおさえてくれたんです。『せっかく入学してくれた子に出場機会を与えたいから』と。

 うちも大阪桐蔭さんも、普段、B戦などはコーチが指揮するんですが、その日はわざわざ西谷先生も舞洲にいらっしゃった。突然の予定変更で、京都の寮に帰る時間が遅くなるうちの部員のために、パンを差し入れしてくださったんです。すぐにコーチからの報告を受けて、私も御礼の電話を入れました」

 可能な限り平等に与えられた実戦の機会でメンバーを絞り込んでいき、最後の夏を迎え、ベンチ入りする20人が決まっても、部内の競争は続く。大阪大会を制し、甲子園出場が決まった時にベンチに入れるよう、背番号のない部員が虎視眈々とベンチ入りのチャンスを狙っているのだ。

 桐蔭の選手たちは引退するまで部内の競争に挑む。だからこそ、腐ることもなければ、退部することもない。最強のベンチ外メンバーが、大阪桐蔭の黄金時代を支えているのだ。(文中敬称略)

■取材・文/柳川悠二(やながわ・ゆうじ) 1976年、宮崎県生まれ。ノンフィクションライター。法政大学在学中からスポーツ取材を開始し、主にスポーツ総合誌、週刊誌に寄稿。2016年に『永遠のPL学園』で第23回小学館ノンフィクション大賞を受賞。他の著書に『甲子園と令和の怪物』がある。

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