今の日本は個々の歴史観が違い過ぎ
「私も取材で予め欲しい答えを提示されたり、そのうち自由な発言枠にも呼ばれなくなった自分を、選に漏れたダメ人間として内面化しちゃうことがある。でもそれって実は一部の人達の評価で、例えば『BUTTER』なんて、女性嫌いな人達をかえって増長させちゃった気もして落ち込んでいたんですけど、ドイツ版だとクールな表紙に一言、『マーガリンとフェミニストは嫌いなの』って。
あ、それでよかったんだ、問題って場所や時間をズラすと解決するのかなって。それも前よりはのびのびできている要因の一つです」他にも外出自粛が明けるや否や真っ先に生存を確認しに出かけたという第5話「商店街マダムショップは何故潰れないのか?」など、つくづく人や町というのは、良くも悪くも底が知れない。
「私は古い価値観の人を矯正しようなんて思ってなくて、むしろ自分と違う人ほど話してみると面白いなあってよく思うんですね。先日亡くなった赤松良子さん(享年94)なんて、平塚らいてうにも山川菊栄にも会っていない私が女性教育史(『らんたん』)を書いたことがツボらしく、へえ、会ったことないの? 私は会ったわよって(笑)。
今の日本の分断って学校で現代史を教えないからか、個々の歴史観が違い過ぎることも一因だと思うんです。だから少し前の時代の話を意外と若者は喜ぶし、今が息苦しい人ほど、『商店街のあの店、謎だよね?』とか、世代の違う人と話すだけで視界が変わる気がします」
目的は衝突でも分断でもなく、「みんなが少しは楽に生きられること」。そのためにも外に出て、人と関わることを、柚木氏は外に出られなかったからこそ大事にする。
【プロフィール】
柚木麻子(ゆずき・あさこ)/1981年東京都生まれ。立教大学文学部仏文科卒。2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」で第88回オール讀物新人賞を受賞し、2010年に『終点のあの子』で単行本デビュー。2015年刊行の『ナイルパーチの女子会』で第28回山本周五郎賞と第3回高校生直木賞。著書は他に『嘆きの美女』『王妃の帰還』『ランチのアッコちゃん』『伊藤くんAtoE』『本屋さんのダイアナ』『BUTTER』『マジカルグランマ』『らんたん』『オール・ノット』等。映像化作品も多数。165cm、A型。
構成/橋本紀子
※週刊ポスト2024年4月5日号