下痢と便秘を繰り返して……
還暦を過ぎた頃から、お腹の調子はおかしくなっていました。便意があるのに、トイレで踏ん張ってもなかなか出ない。ようやく出たと思ったら、ウサギの糞。真っ黒でコロコロの固い便なんです。かと思えば、緩いのがワーッと。まさに下痢と便秘を繰り返す状態でした。だから、ライブの仕事などで出かけると、どこにトイレがあるか、まず確認していました。
家族に「早く病院へ行って腸の検査を」と促されても、「なんでケツの穴を他人に見せなきゃいけないんだ!」と拒絶。糖尿病で通院していたので、問題があったら指摘されるはず、という思い込みもありました。糖尿病と大腸がんじゃ、受診する科も検査内容も違うのに、そういうことがわかっていなかったんです。
そんな状態で2、3年過ごしてしまい、ついには排便後にトイレットペーパーに血がついたり、めまいを起こしたりするように。観念して受診したのが、2020年9月。大腸内視鏡検査でポリープが3つあり、そのひとつが直腸で大きくなり、出口を3分の2ほど塞いでいることがわかりました。便がうまく出ないはずです。検査を進めると、リンパ節にも転移した大腸がんでステージIIIb。5段階中、悪い方から2番目と告知を受けました。
思わず「まだ大丈夫ですよね。間に合いますよね?」と医者に聞いたのに、医者は「う~ん、やってみましょう」と言うだけ。目の前は真っ暗、気持ちはズ~ンと落ち込みました。
「オレががんばらないといけない年齢」
その時は、いろんな思いがありました。これからどうなっていくのか、という恐怖や不安。もっと生きたい、という気持ち。家族のこと、仕事のこと。怖がりの僕は、できるなら目を背けたい、逃げたい。なかったことにしたい。でも、どうあがいたって逃げられないんです。自分の身体ですから。
オレは一人っ子で、トランペッターだったオヤジは、当時88歳。オレが先には逝けない、という思いもありました。3人の子どものうち、ミュージシャンの長男(MASA)は独立していましたが、俳優になった次男の将春と長女のリナはまだまだ。オレががんばらないといけない年齢でした。
仕事は、翌2021年4月から、コロナで1年延期になっていた「ラッツ&スター」のリーダー(鈴木雅之)のソロコンサートツアーに、バスボーカルの佐藤(善雄)さんと一緒に参加予定でした。シャネルズ結成40周年ということで、ソロコンサートの中に「ラッツ&スター」のコーナーを設ける予定だったんです。「ラッツ&スター」を誰よりも大事に思っている僕としては、何としてもやりたい。その目標が、病と向き合う力になりました。
(後編に続く)
◆取材・文/中野裕子 撮影/山口比佐夫